授業構成は、午前のカリキュラムでは一般的な科目を学ぶ。普通に基本的な魔法学から数学や歴史や科学、美術に現国に音楽に…と言った感じだ。
午後のカリキュラムは自分の属性を学ぶ事になっているため、咲弥は水属性の実習棟へ行き、そこで専門的な勉強を行う。

制服はよくあるブレザータイプと、如何にも魔道士といったようなくるぶしまであるワンピース状のローヴタイプに分かれており、咲弥はローヴタイプ。
色はブラウンに統一されている。ブレザータイプの場合だと、ブラウンのブレザーにブラウンのチェックパンツ。白いワイシャツにループタイだ。

その制服に着替え、通学鞄を持って重い足取りで部屋を出ると、嗚呼やっぱり今日も居た。廊下の先でチョコレート菓子を食べながら自分を待っている"あの男"が。

「おはよう、咲弥」
「………」

天空万里(あまぞらばんり)という転校生…咲弥の天敵だ。

「今日もキレカワだね。流石、俺の天使様だよ。ね、今日こそ手繋いで学校行こう?あ、ポッキー食べる?限定の桜餅味なんだけど」
「いりませんし、行きません」
「えー!?咲弥、学校行かないの!?」
「行くよ!でも、貴方とは手を繋いで行かないから!」

万里は長い足でこちらに向かってくると、ピタリと咲弥の隣に並び、嫌味なくらいに腰を折って顔を覗き込んできた。
163センチしかない咲弥とは違い、186センチもある万里が屈むと、自分の身長が本当に小さいと嫌でも自覚させられてムカつく。
それが悔しくて睨むのだが、万里は「カワイイ」としか言われなくて更にムカつくのだ。

天空万里は咲弥が持っていないものを全て持っている男だ。
身長だってそうだが、無造作なのに様になる黒髪にキリッとした涼やかで男らしい目元。ガッチリとした筋肉に長い手足…転校した時からカッコイイカッコイイと騒がれている彼は、咲弥から見ても申し分ないイケメンだ。
反対に咲弥は小柄でヒョロヒョロだし、顔だって女性的で可愛い系。イケメンとかカッコイイなんて言葉とは縁遠い。頑張っても身長は伸びないし、筋肉もつかない。高等部2年にもなって貧相な体でいるのが恥ずかしくて、体型を隠してくれるローヴタイプの制服を着ているのだ。
因みに万里は勿論、彼のスタイルの良さがよく分かるブレザータイプを着用している。

しかも彼には物凄い能力があったりするのだ。

「ねえ咲弥、俺今日は水属性の日なんだよね。だから午後も一緒に居られるよ?凄く幸せじゃない?」
「あー…そう。うう、サイアクなんだけど…」
「えー、何で?俺はすっごく嬉しいよ。咲弥とずっと一緒にいられるのなんて、滅多にないしさ。あ、今日の授業は何だっけ?」
「…今日は空を飛ぶんだよ。多分水霊を使うんだと思う。天空くんには無理な授業だから」
「水霊かあ。確かに、レベル高いかもなぁ」

万里の魔法属性は、"全て"だ。
一人一属性が基本で、それが揺るぎなかったこの世界で、万里は火・水・風・雷・木・土・光・闇全ての属性を持っている。こんな例は今までにないスペシャルな存在である。
ラシガン学園に来る前は、偏差値が低い公立の魔法学校で土属性の授業を受けていたのだが、全ての属性魔法が使えると分かった途端、忽ちニュースとなり、連日新聞やテレビやネットを騒がせ、国からの援助をたんまりと受け取り、ラシガン学園Sクラスに来ることになった。
特別な生徒なので、特別な場所で学ばせようということらしい。
それはそうだ、世紀の大発見野郎がその辺の公立学校にいる方がおかしい。設備も何もかも整ったラシガンで過ごすのがベストだろう。咲弥だってそう思うし、国が援助するのは当然だとも思う。

全ての属性を持つせいか、一つ一つの魔力はそこまで高くはない。万里にとって空を飛ぶという高度な技はかなり難しいだろう。しかし、それでも全ての属性を持つなんて羨ましい限りだ。まるで全知全能の神のようでカッコイイ。

でも、彼には他に魔法があったなんて聞いていないぞ。


多くの生徒は朝食を食堂で取り、そのまま学園へと登校するので咲弥が部屋を出る頃には寮の中に生徒はほとんどいない。静かで快適だ。
廊下には咲弥とポリポリと音を立てながら菓子を食べる万里しかいない状態になっている。
だから万里はそれをいい事に、とんでもない要求をしてくるのだ。

「咲弥、今日のおちんちんチェックさせて」
「…っ」

おちんちんチェック…その卑猥でふざけた単語を、万里は毎朝口にする。さも、いつもの事ですという風に何食わぬ顔をしてそういう男の瞳は、金色に怪しく輝き、カメラのフラッシュのようにチカリと瞬いた。その瞳はダメなんだ、それは彼の魔法だ。

「ああもうサイアク……サイテー。バカ、嫌い。大ッ嫌いだ。嫌い…」

手が勝手に通学鞄を床に下ろした。両脚も勝手に肩幅くらいに開いていく。抵抗しようにもそれは敵わず、何かに引っ張られるように体が意思に反して動いてしまう。
そして右手でローヴの裾を大きく捲り、これでもかと下半身をさらけ出すと、今度は左手が勝手に動いて、下着をずり下ろして性器を露出させる。
燦々とした朝日に照らされ、隅々まで万里に見られている白い性器は、力なくだらんと垂れ下がり、足の間に行儀良く居る。