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そう返事をすると、やはりと言ったように、浩は鼻から息を吐いた。

「という事は、昔の技術、プロジェクションマッピングではないな。鮮明でナチュラルでレベルの高い技術魔法を使ったということ。自分の手をスクリーンにして皇にその黒い煤が漂ってるようにマジックプリズムを起こした。相当なテクを持った魔法使いだろ。王に近いはず」
「………」

そうだった…万里は八属性全ての魔法を"フルパワー"で使えると言っていた。黒髪に普通の健康的な肌色をしているから、それは嘘だろうと受け流していたが、本当かもしれない。
もし、サタンの粒子が嘘で本当は光魔法を使ったマジックだったとしても、万里の存在は異質だ。だって、彼は全然"白くない"のだ。

八属性全ての魔法をフルパワーで使えるということは、それほど人から離れると言うこと、王に近いということ。しかし彼は全く色素が抜けていない。
それだけでもう悪魔という証明になるのでは?

「ムロヒロくんは、悪魔っていると思う?」
「は?悪魔?随分昔のモチーフ出してくんな」

やはり、咲弥は確かめなければならない。万里が本当に悪魔なのかを。

「………」

本当に、自分は生贄なのかを…

「すまん、何か気に障ることを言ったか?」
「…え?あ、違うよ。 ちょっと考え事してて。ごめんね」
「……そうか」

そう微笑んでパスタを口に運ぶ。何故だろうか、美味しいはずなのに味がしない。ゴム紐を口に入れているみたいだ。

「悩み事があるのかもしれないが…いずれ良いことがあるはずだ」
「うん。ありがとう」
「適当な事を言っている訳では無いぞ。見てみろ、あそこに不死鳥が飛んでいる。縁起がいいな」

浩にそう言われて顔を上げると、森の上で不死鳥が旋回していた。いつも見るあのマジックペットだ。
でも咲弥は「縁起がいい」と思える程、不死鳥を見る機会が少ないわけではないのだ。

***

店内には耳障りにならない程度の上品な音楽と、アナウンスが流れている。咲弥はそのBGMを聞き流しながら、浩に教えてもらった光魔法の仕組みやや万里が悪魔かもしれないこと、そして今ローマがどうなっているのかと考えていた。

『色素が抜けても、オシャレで髪を黒く染める人もいる。でも天空くんは染色している感じでは無かったし、肌の色も普通だった。た、体毛だってあるし…でも、ムロヒロくんの話が本当なら、高度な光魔法が使えるということ。それなのに彼の見た目は普通の人間の見た目だ。全属性が使えて、しかもその魔法レベルが高いと、逆に色素は抜けなくなるのかな?…ダメだ、前例がないから解らないし、そもそも人を操る魔法が何だか解らない…』

デパートのエスカレーターに乗り上階を目指すと、仁にちょっとちょっとと腕を引っ張られ呼び止められた。

「皇どこ行くんだよ。フランフナンはこの階だぞ」
「…え?上の方行くんじゃないの?」
「上の階にも花瓶はあるけどさ、金持ちのばーちゃんが買い物するようなフロアだろ?そんな所の花瓶より、フランフナンの方が安いしアーパスちゃん好みだよ」
「そうなんだ、じゃあそっちにしようかな」

咲弥は今、大手デパートに花瓶を買いに来ている。早々にペナルティの課題を終わらせた彼は、センスの良い仁を誘ったのだ。仁ならアーパス好みの可愛い花瓶を選んでくれそうだと期待して。

そして降りた階は、女性だらけのフロア。

『うわぁ…』

20代から30代女性用の服屋が並んでいるせいで、"お姉さま"な客が多い。女性しかいないその空間に咲弥と仁がいるのは異質で、咲弥は恥ずかしそうに肩身を狭そうに仁の後ろを歩いた。
反対に仁は気にならないようで堂々としている。

「南野くんは、よくこういう所来るの?」
「たまになー。皇は?」
「無いよ!無い無い!」
「ハハハ、無さそうだよな」

そんな事を話ながら進むと、目的のお店へ到着。やたらとピンクやキラキラとした装飾が目立つその店は女性用の雑貨屋みたいで、可愛いデザインのバスグッズやリビンググッズ、食器まで売っている。
ドット柄や花柄、キラキラしたアクセサリーなど、以下にもアーパスが好きそうな感じだ。
全体的に女性向けだが、男性も利用する有名な雑貨店。しかし水魔法修行ばかりをしている咲弥はそんな雑貨店なんて知るわけもなく、ずっと仁の後ろに隠れたまま。

「すみません、女の子へのプレゼントなんですけど、花瓶ってありますか?」
「はい、ございますよ。こちらです」