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『ムカつくー!ムカつくムカつく!』

パソコンをバンバンと叩きたくなる衝動をどうにか我慢しながら、キーボードを打つ指に力を込めてレポートを進めたのに、仁は能天気に余計なことを言い放った。

「そういや天空も昨日サボったよな?なんだよ、二人して何かしてたの?」
「はぁぁぁ!?」

二人して何かしてたの?だと?
ああしていたさ!不本意ながらもしていた!ああもうムカつく!

「何もしてないから!!」
「え?…お、おう…そうか…」
「私はあの人と何もしてないから!無関係だからね!!名前出さないで!」
「うん、ごめん、もう言わないっす…」

物凄い剣幕で否定し、綺麗な顔を歪めて仁を睨むと仁は狼狽えながら頷き、謝ってきた。

『ああもうっ、本当やだ!やだやだやだ!無関係じゃないのが一番やだ!』


チラッと万里の席を見ると、彼はまだ教室に帰ってきていない。火属性の教師に呼び出されたようで、おそらくこっぴどく説教されているのだろう。

そう考えるとよく見る普通の生徒のようなのに、万里は普通じゃないのだ。悪魔なのだから。

『私が生贄なんて…本当なのかな。冷静に考えると色々おかしいし…』

旧約聖書にあるヨブ記。それに出てくる悪魔である万里は、法王と取引をした。
皇咲弥を自分に捧げる代わりに、人間への試練を軽くするというのだ。つまりは咲弥は法王に売られたという事。運命は咲弥に委ねられ、咲弥が万里のものにならなければ大規模の厄災が行われてしまうのだ。

でも、そんなのはすんなり信じられない。
悪魔だのヨブ記だの厄災だの、嘘臭いし自称悪魔なのも気になる。

まあ法王に確認すればいいのだろうが…そんな簡単にアポが取れる訳でもないし、こんな事を確認出来るほどの勇気なんてない。
もし万里の嘘だったらと考えると、恐ろしくて恐ろしくて…

しかし、人を操る魔法や全属性の魔法を使える力や、あの煤のようなサタンの粒子は無視出来ない。
特にサタンの粒子は不思議だ。少なからず水属性の咲弥はあんなものは見た事がない。

「ねえ、南野くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
「え?……俺、水属性の論文とか分かんないけど?」
「ああ、レポートじゃないよ。全然違うんだけど、黒い煤のような物を上空に飛ばして操れる?」
「黒い煤?え、煤そのものじゃなく?」
「煤みたいな、粒子の細かい、黒い砂?なんだけど…」

サタンの粒子とは言えないので言葉を濁しながら言うと、仁は不思議そうな顔…と言うか「大丈夫か?」とこちらを心配しているような呆れた表情をした。

「そんなの朝飯前だろ。黒い砂だけを選別して風で吹かせて飛ばすのなんて初歩の初歩だぜ。好きなように飛ばせるよ。ハート型にして浮かせることも出来るし」
「ホントに?でもそれは普通だと見えないんだ」
「ん?意味わかんない」
「えっと、手で目を覆ったら初めて見える〜みたいな?」

片手で自分の両目を覆いながら説明すると、仁はうーん、と唸り声を上げて「それは違うな」と呟いた。

「それって風魔法とは違う気がする。そんなの風魔法で聞いたことねーよ…ほかの属性の魔法じゃね?黒い砂は飛ばせるけど、その手で目隠しして見せるっつーのは無理だし」
「ああ、だよね…」

黒い砂を風魔法で操ることは簡単だが、手を通してその光景を見せることは不可能だという。
風属性ナンバーワンが言うのだがら、その線は消えてしまった。

だが、幸いここはSクラス。他属性の成績優秀者が集まる教室だ。

『ほかの人にも聞いてみなきゃな』

すると、一人の生徒がヒットしたのである。