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「落ち着いた?」
「!?…ま、まだ落ち着かない!」
「うーん、じゃあもう一杯ね。これ飲んだら何で怒ってるのか教えてよ?」

そう言いながら万里はボトルを持ってくる。そのボトルには見覚えがあった。あれは世界一有名な成果ブランドのロゴではないか。

『やっぱり凄いやつじゃんー!』

心の中で歓喜しながらも悟られないように顔は不機嫌な表情を作り、二杯目のジュースを飲んだ。嗚呼、やはり美味しい。

『しかも、何だか気持ちいい〜』

老舗ブランドの作る高級オレンジジュースは市販のそれとは別格のようで、ただ美味しいだけではないふわふわとした気持ち良さまでプラスされている。体が軽くなったような、肩の荷が降りたような、体の凝りが解消されたような…そんなリラックス効果を与えてくれるみたいで、咲弥のガチガチな心も段々蕩けてきたみたいだ。

「ねえ咲弥、そろそろ咲弥が怒ってた理由訊いてもいい?」

両手でグラスを持ってジュースに舌鼓を打っていると、いつの間にか万里は隣に座ってきた。図々しくも肩を抱いてきたが、気持ちがふわふわしているせいか振りほどくのが面倒くさい。

「そんなの自分が知ってるでしょ。あんな夢見させておいてさぁ」
「夢?どんな夢?嫌な夢かな?」
「はー?何言ってんの。君と私がセックスしてる夢に決まってるだろ」
「え?」

ああ美味しい。遠慮しないで三杯目も飲んじゃおうかな。テーブルの上にあるボトルを勝手に掴んで勝手にグラスへとそそぎ、咲弥は二回もジュースをおかわりした。でも何故だろうか、舌がうまく回らない。
…ま、いっか。

「咲弥、俺とエッチした夢見たの?」
「だから、君がそういう夢を見せて来たんじゃないか。精神から操れるって言ってたよね?だから私の頭の中を操作して、わざとあんな夢を見させたんでしょ?」
「えーっと…エッチってどんなエッチしてた?」
「何それ?ヘンタイな夢は見せられても内容までは操作出来ないの?」

万里は煩いなあ、せっかく味わっているのに横からごちゃごちゃと夢の内容を聞いてきて…。
咲弥は煩わしそうに万里を睨むと、彼は目をパチクリとさせた後に「そ、そうなんだよね。エッチな夢を見ろって命令するだけだから、具体的な夢の内容までは命令しないんだよ。だからどんな夢か教えて?」と笑顔を向けてきた。
その言葉を聞いて咲弥は万里の顔をべチン!と叩く。

「嘘だよそれ!私の夢はいつも、私が体験したことの無い事は出てこないんだもん!それなのに昨日の夢は天空くんとセックスする夢だった。私、まだ誰とも最後までシたことないのに、夢に出てくるはずないもん!だからこれは天空くんがそう見るように操作したんでしょ!」

そう、咲弥の夢は基本、本人の体験していないことや、想像で補えないことは出てこない。誰かに追われる夢は、鬼ごっこなどで追いかけられた事があるから見れるが、殺される夢は殺された事が無いので見られない。殺される!と思った瞬間に起きるので、刃物を刺された瞬間や首を締められた瞬間などは解らないままなのだ。
いやらしい夢だって見ることはあるが、体と体がガッツリ繋がっているセックスをしている夢は今まで見たことが無かった。誰かが体を重ねてきて「あ、するんだ」と思ってもそこで終了。肝心のシーンを見ることなく目が覚めてしまう。

だから万里との夢は、万里が夢の内容まで操っていなければおかしいのである。

あんな夢を見せるなんてサイテーだ、と彼の綺麗な顔面を手のひらで打ったが、何故だろうか、万里は何だか喜んでいるみたいだ。

「ああ、うん。そうだね、俺がそう見るように操作したよ。確か、こうだったかな?」
「あぶな…!」

嬉しそうに口角を上げる万里に突然足首を掴まれてしまったので、咲弥は慌ててグラスをテーブルへと戻した。危なかった、ジュースは無事だ。

それを彼は見届けると咲弥をソファへ寝かせ、その両足を持ち上げて大きく開かせ、自分の体をその間へとおさめる。おかげでローヴは捲り上がり咲弥の下着が丸出しになるのだが、何故だか今の咲弥はそれを気にしていない。

「もー、全然違うじゃん。覚えてないのぉ?」
「あれ違ったっけ?でも俺のチンポが咲弥のお尻に挿入ってんでしょ?」
「こっちじゃないよ。逆向きでしょ?」
「え?…あ、そっかそっかバックだったよね。ごめんね咲弥、あんまり覚えてないからベッドでちゃんと教えてくれる?」
「はあ?面倒くさい…」
「このジュース、もう2本あるんだけど、咲弥にあげるよ?」
「……しょうがないなぁ」

咲弥の中では世界一美味しいオレンジジュースの位置付けに来たそれをプレゼントされるのなら、喜んで教えてやる。内心嬉しいのだが渋々、と言った感じを出しながら教えてあげる。と言うと、万里は今まで見たこともないような満面の笑顔を見せて咲弥を抱き上げ、そのままベッドルームへと連れて行った。

そして黒いふかふかのベッドにお姫様のように下ろされ、長い髪を撫でられる。