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それならアーパスにあげるよ、と咲弥はバスルームから水を張った洗面器を持ってきて、そこに薔薇を寝かせるように入れた。アーパスの隣へと置くと、彼女は「えー!」と不満を漏らす。

〈花瓶はないの?〉
「私が花瓶なんて持ってる訳ないじゃないか。こんな大量な薔薇を収められるコップも空き瓶だってないよ。明日買ってくるからこれで我慢して」
〈もー!絶対100均のなんて買ってこないでよね!〉
「分かってるよ。ピンク色の可愛いのにするから」

本音を言うと捨ててしまいたいが、草花を粗末にすると土や木の精霊達が怒るらしいので考えなしに捨てられない。水属性だから木・土属性のことなんて考えなくてもいいのかもしれないが、どんな属性の精霊にも嫌われたくないと思うのが咲弥だ。
無駄な出費が出来てしまったと溜息をつきながら、彼は熱いシャワーを浴びに行った。
今日は何も考えたくない。早く寝てしまいたい。


アーパスには夕飯を与え、自分は食事を拒み、まだ9時にもなっていないが床へとついた。
不思議そうな顔をするアーパスにはごめんねとだけ伝え、聖水の中へと体を沈める。
水属性の魔法使いは溺れないし水温で風邪をひくこともない。水と一体となり、体が溶けて一つになるような感覚を味わいながら眠るのだ。

『聖水に浸かると、生き返った気分になる』

咲弥は目を閉じ、じわじわと体を包んでいく聖水に身を委ねた。

いつものように目覚めると、何故か明るい部屋の中には万里が居て、ニコニコと微笑みながら咲弥の顔を覗き込んでいる。

「え!?」
「おはよう」

慌てて上体を起こして後ずさるが、万里は笑顔を崩さずに制服を濡らしながらベッドの中へと足を入れてきた。膝から下のスラックスや靴下が水に包まれ、ゆらゆらと揺れながら色を濃く染めていくというのに、彼は気にせず聖水を汚していく。魔力で沈めている百合の花を躊躇いなく踏んでいく。そしてざぷんという音を立てて床に膝を着くと、とうとう下半身がすっかりと水に浸かり、ブレザーまで広がるように水面に落ちた。
それを見て全裸でいるのを思い出して思わず手で体を抱くように隠したが、何故だろうか、その隠し方は酷く曖昧で切羽詰っている感じを万里には与えていない。咲弥の中で、そこまで見られることを嫌がっていない自分がいる。

「なんで、どうやって入ったのさ」
「俺は悪魔だからね、入ろうと思えば簡単だよ?あの可愛らしい人魚ちゃんも、今は何が起きても目が覚めないようにぐっすり眠らせてるから安心して。
ああそっか、咲弥は毎晩聖水に入っているから綺麗なんだね。いつもキレーだなぁって思ってるけど、こうして見るとやっぱりキレーだよねぇ」
『綺麗…』

どうしよう、悪い気がしない。何故だか万里に不快感がなく、寧ろドキドキと心臓が高鳴ってしまっている。

『顔が熱い…』

ゆっくりと膝を抱き、万里の視線から逃れるように背中を向けた。自身の膝に頬をつけるように埋めてギュッと目を閉じると、万里の甘い香水の香りをより感じてしまい、体の奥の方がむずむずとする。

「あれ、咲弥のことだから出てけよ!って怒ると思ったのに大人しいね?もしかして、俺がここにいてもいいのかな?」
「し、知らない…制服濡れるよ。何してんの」
「いいよ。俺だって水の魔法使えるし風の魔法だって使えるんだからすぐ乾く…ああ、そっか、ごめんね気付かなくて」
「え?」

何かを察したのだろうか、突然水を蹴るようなザブザブとした大きな音を立てながら、万里が動き出した。そちらに顔を向けると彼はあまり濡れていない入口の方へとブレザーや濡れたスラックスを脱いで投げていく。

「は!?何してるの!?」
「え?濡れちゃうから脱ぎなよって意味でしょ?」
「はぁ!?何それ!別に、そんな意味じゃ……や、やだ!バカバカバカ!」

万里は「えー?」なんて言いながら楽しそうに笑い、最後に身につけている下着まで足からするりと抜くと、咲弥同様全裸姿で再びベッドへと入って来た。

「うそ!?うそうそうそ!?」
「俺の体見るの何回目だっけ?いつも脱がされちゃうのは咲弥だもんね」
「やだ、来ないでっ。アーパス!アーパス、助けて!」
「無駄だよ。彼女はぐっすり眠っている」

だから楽しいことしよう?咲弥の真っ白な肩に両手を置くと、万里はそう微笑んで咲弥の額へとキスをした。

***

水の枕を抱いてうつ伏せになっている咲弥の腰は、万里にガッチリと掴まれている。カエルのように不格好に開かされた脚の間には万里がいて、尻には彼のいきり勃ったそれが挿入されていた。

「あぁん!あぁ!あっ、あっ…!」
「はあ、はあ、すご、なんかさ、水がいい感じなんだよ…ン!」