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「凄い。凄いよ、素敵な質問だよ咲弥」

と言った。
その声は興奮で震えており、切れ長の瞳は歓喜で丸くなっている。

「いいよ、咲弥にだけ特別に教えてあげる。大好きだから、本当、特別だよ?」

何だろう、意味が解らない。突然そう嬉しそうにされても付いていけず、咲弥は涙を拭いながらちょっと待ってと断り、綺麗になったローヴを身にまとった。
そして万里に向き直り、何なのと言うと興奮している割には万里はやたらもったいぶった。まるで小さな子供が母親に得たばかりの知識を披露する時のようだ。

「じゃあね、そうだなー…人は俺をね、厄災とか災い・呪い、時には神様なんて呼んだりするよ。まあ、神様は随分見当違いなんだけどね」
「厄災…?」

なんだそれは?抽象的過ぎて、さっぱり想像がつかないぞ。マイナスな言葉が多いから疫病神なんて苛められたりしたのだろうか?
いや、それだと神様なんて呼んだりはしない。

頭上にはてなマークを飛ばすと、万里は苦笑しながら更にヒントを出す。

「うーん、まだ分かんないかな。時には試練って言ったりもするかな」
「試練?…」

試練…その単語には聞き覚えがあった。あれは確か、以前世界史の授業を受けた時だ。授業内容とは関係なく、教師がこんな話もある、程度に話していたのを覚えている。旧約聖書の問題で…

『え、でも試練って…そんな、嘘だろ』

その言葉と結び付けられる文を知っている。試練、厄災、信仰…
でも、そんなの本当に…

「………」

咲弥の大きな瞳は、万里を射抜くように見開かれ、頼むから自分達と同じであってくれと、彼と自分達にそこまで違いはないはずだと期待を込めて見つめていた。
"彼は人間だ"と。
そうでなくては、目の前にいるのは…

「そんな、ヨブ記…?」

それは、現代では有り得ないことではないか。