熱の条件 | ナノ






「はい。「白鳥の写メとかくれないの?」ってきたんで、喜んで送りましたよ。あ、どぎついのは送ってないから。健全なものだけですけど。そういうやり取りがあったから、イケると思って告りました。そしたらOKもらえたんです。すぐ別れましたけど」
「交際はどれくらい続いたんだい?」
「二、三週間くらい?」
「どんなお付き合いをしていたのかな?」
「えっと…」

明らかに不機嫌そうな顔をされた。
眉間にしわを寄せ、綺麗な顔を歪ませている。
元彼との交際内容を今更訊かれるのは、確かに不快だろうが、アキラからしたらそんなの知った事かと言った感じだ。
白鳥がいくら気分を害そうと、何か有力な情報を獲られればそれでいい。

「それくらいだと、放課後にデートをした程度かな?」

気にせず質問をぶつける。

「…学校終わりに駅前のカフェまで下りて、お茶したくらいです。それしかしてないし」
「ウィンドウショッピングとかはしなかったのかい?」
「………ああ、僕の知り合いのところに行って、お揃いのストラップ作ってもらいました。それくらいで……。それ付けてから直人ファンクラブがうるさくなったらしいけど、僕は知りません。先輩がシメてくれたっぽいんで」
「二人とも、スマホにつけていたの?」
「先輩はスマホですよ。僕は無くしたら嫌なんでペンケースにつけてました。使うとき以外は出してなかったですね」
「学校や寮では会わなかった?」
「あまり。先輩、僕との交際は秘密にしたがってたんで、外で待ち合わせてデートするくらいでした。あ、ちゅーすらしてないんで。ノンケ相手にいきなり手は出しませんから」

突き付けるように言う白鳥に、アキラはそれが一番欲しかった情報だと心の中でガッツポーズをした。
中野島直人の男性経験。これが一番重要なのだから。

「中野島くんは、やっぱりストレートだったの?」
「そりゃそーですよ。元カノの噂はいくつか聞いたけど、元カレの噂なんて一度も聞いたことないですよー。元カレは僕ぐらいじゃない? 」
「そっか…カフェではずっとおしゃべりしていたのかな?」
「はい。先輩無口なんで、僕が一方的に話題ふってました。受け答えはしてくれるんですけど、じっと僕を見つめてばかりでしたよ。あー、今思うと不気味ですね」
「そうなんだ…何で別れたのかな?」

この時、アキラほぼ確証を得ていた。もう、間違いないだろう。

「さあ?いきなりふられました。やっぱり男は無理だったんですよ。「ごめん、やっぱり違う」って言われたんで」

やはりそうか。


***

鐐平side


「と、言うことなんだけど、官僚はどう思うよ?」

白鳥とアキラの話し合いが終わり、その後充分に白鳥との逢瀬を楽しんだ後、鐐平はアキラの部屋へ呼び出された。
簡素な折りたたみ式のローテーブルと、大きなクッションが転がっているシンプルなリビングで、アキラはコーヒーを飲みながらあぐらをかいている。
このテーブルもクッションも見るからに安物。おそらく、マグカップもそうだろう。
金ばかり持っている家の子供が多いせいか、こういった庶民的な製品を見るのは久しぶりだと思った。

部屋に入ってすぐ、考えなしに「普通だな」なんて感想を洩らしてしまい、内心焦ったが、アキラになに食わぬ顔で「いつ、白河派の人間にガサ入れされてめちゃくちゃにされても痛くないように、安物で揃えた」なんて返されてしまい、反対に面食らった。
この友人は本当に意味が解らない。真面目ぶっている割に、耳はピアスホールだらけだし。何故この穴だらけの耳に誰も気付かないのか不思議だ。


彼の胡散臭さに誰も違和感をおぼえないのだろうか。見た目が爽やかだから、完璧に騙されている人間ばかりなのだろうか。
アキラの素顔は、絶対に狂っているに違いないのに。項を掻きながら、そんな事をずっと考えている。

まあ、その隠している部分をこれから見せてくれるのだろう。だって彼のテリトリーに入れてくれたのだから。

鐐平もコーヒーを飲みながらクッションに寄りかかり、メガネを外した友人の顔を見つめる。メガネをかけていない顔は初めてかもしれない。

「と、言うことと言われても、僕には理解が出来ない」

冒頭のセリフに対して返事をし、カップをテーブルへ戻さずにフローリングへ置いた。

「だからさ、桜は白河とは付き合って無かったんだよ。一方的に付き纏われて、傍に置かせられていただけ。本人が付き合っていなかったっつってんの」
「つまりは、君は恵桜介とそこまで深い会話が出来るような関係になったということか。恋人同士になったとでも言うのか」
「その通りだよ官僚」