熱の条件 | ナノ






アキラside


アキラの二十四時間


アキラは自室でヘッドホンを装着し、チェスター付きの椅子に座り、ヘッドホンから聞こえる音を楽しんでいる。
聞こえる音はゴォーッという煩い空気音。これは、桜介が部屋でドライヤーをかけている音だ。

「はあ、桜…」

昨日−−桜介への告白が成功した日、アキラはパワーストーンが付いたテディベアをプレゼントした。珍しい石でとても縁起がいいものだと伝え、仕舞わずに飾るよう誘導したのが上手くいったようだ。
美術準備室で「テディベアありがとうございます。早速飾りました」という言葉も聞いたし、プレゼント作戦は上手くいったと確信した。

だってその中には盗聴器が仕掛けられているのだから。

いつかの為にずっと前に用意していた物が、こんなに役に立っている。

『ああ、桜の風呂上がり…桜の…』

桜介の風呂上がりと思うだけで、陰茎がいきり勃つ。
ドライヤーの音以外は何も聞こえないのに、余裕で興奮出来る。

『絶対いい匂いすんだろ。肌もピンクに染まって、髪の毛が濡れてて。髪を濡らした桜とか…やべえ、何だよそれ』

白くて柔らかい桜介の肌に、ふわふわの泡が絡まり、体を清める。
華奢な首から、薄い胸、毛が無く美しい禁断の場所まで泡が滑り、あの貝殻のように薄く形がいい爪が鎮座した細い指で撫で洗う。
敏感で、ほんのりと色付いた性器を泡で包みながら、桜介が自ら清めるのだ。

その、美しくも官能的な様を想像するだけで、アキラは我慢が出来なくなる。
鈴口を濡らし、ギンギンに勃起したそれをスエットから取り出すと、右手で握り、左手はヘッドホンをより耳に密着させ、自慰を開始した。

『桜…桜、』



二十四時間前……昨日は帰宅してから三回出した。

両想いになり、キスをして、フェラチオまでしたのだから、アキラの興奮具合は尋常ではなかった。
自室に入るなり、桜介の表情や声、肌の気持ちよさやキスの味、陰茎の味、精液の味、体臭、唇の柔らかさ、見えた前歯の愛しさや髪の香り…全てを思い出し、猿のように自慰に耽り、物凄い量の精液を吐き出した。

桜介にフェラチオをしながら、こっそりと自身を扱き、掌に出してハンカチに拭った時は、大した量ではなかったが、一人でリラックスした状態での射精はもの凄かった。

そして今度は、仕掛けた盗聴器からの生活音を聞きながらにしよう。
そう思い、盗聴器のチューニングを整えていたのだが、アキラにとってはそこからが修羅場だったのだ。

まず、中野島直人の訪問。
先輩に頼まれたのだから仕方ないのだろうが、桜介に手料理を振る舞い、一緒に食事をしているのには、物凄く嫉妬をした。それはアキラの役目であると思ったからだ。
"本来、同室になり、桜介と共に寝食し共にテーブルを囲むのは自分である。何故なら好き合っているからだ。"と、自己流の解釈をしていたため、直人の行動には非常に憤った。
このとき既に、桜介のスマートフォンを盗み見ていたため、桜介と鷹臣が恋人同士ではなかったことは知っていた。
鷹臣に一方的に同室にされていたと知っていたので、片思いで同室になれるのなら、両想いなんて尚更同室に相応しい。などと思っていたのである。

だが、それは鷹臣が特別に何らかの力を使ったから出来たことであると自覚しているため、子供のような無理がある考えを、理性でどうにか押し込めた。

そこまではまだ良かった。
問題は直人の発言だ。


−やっと、僕に興味持つようになったんだ

この一言だ。

この言葉が耳に入った瞬間、アキラは「クソ!」と叫び、机に置いていたマグカップを壁へと投げつけ、壮大に破片を飛ばし、髪の毛が抜けるくらい頭を掻きむしった。

『気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった気付かなかった!!!!!!』

心の中で何度も絶叫し、自分に怒り、直人へ怒る。

『何で気付かなかったんだよ!!!』

椅子を蹴飛ばし、机に拳をぶつけた。ドンッ!という鈍い音がしただけで、気分は晴れなかった。

取り巻き四人組のことはそれなりに観察していたはずだ。
その中で、直人はまだ安全パイだと思っていた。
常に面倒くさそうで、鷹臣に言われているから桜介や嗣彦達と共に居るだけ。鷹臣の命令でなかったらこんな事はしていない。そういうスタンスにしか見えず、桜介の事は何とも思っていないようだった。