∴ 5 それが何だ。実はこいつは桜介の事が好きだったのだ。 『敵は白河だけじゃない…』 −桜介に恋をしている厄介な人物は近くにも居た。 アキラはパソコンを開き、直人を調べ始めた。 読者モデルをしているのは知っていたので、その雑誌、読者モデル名義の直人のアメーバブログやツイッター、掲示板サイトでの直人のスレッドなど、ネットで調べられる事は全て調べた。 結果、大した成果は無かった。 それはそうだ。読者モデル名義のブログやツイッターなんて、いい事しか載せていない。表面上のものだけで、彼の思想や信念、趣味や人に言えぬような情報があるわけがないのだ。 それに外面はやはり良いみたいで、普段の彼のやる気の無さが出ている文体では無い。完璧に作られたキャラクターだ。 そんなだから、勿論掲示板サイトも大した事は書かれていない。彼のファンの書き込みと、子供じみた下らない悪口しかない。たまに、大和の生徒らしき人物の書き込みがあったが、それも有力なものではない。 そして、直人も学校ではノンケで通しているようで、ゲイであるといったスキャンダルも見つからなかった。 『…まあ、ノンケだろうが、あのルックスならファンくらいいるだろ。庶民の俺にだっているんだから、読者モデル様なんてもっと居るはずだろ』 まずはそこから当たってみるか… 勝算は判らないが、アキラは直人のプロフィールから情報を集めることに決めた。 更に、鷹臣らしき人物からの桜介への電話が、アキラを苦しめた。 具体的に何を話していたのかは判らないが、桜介が泣いていたのは判った。 それが悲しくてアキラはその日、眠れなくなったのだ。 鷹臣への憤りもあったが、桜介を早く自由にしてやれない悲しさでいっぱいになった。 桜介を好きになったきっかけはコウくんだ。 しかし、コウくんなんてどうでもいいと思えるくらい、今では桜介が好きになった。 何故だか分からないが桜介が好きだ。大好きだ。 その大好きな人を幸福にしてやれないのが悲しくて悲しくて、電気をつけたままの明るい部屋の中で、アキラは夜通しずっと泣き続けた。 声は出さずにひたすら静かに涙を流しては拭っていた。 おかげで目が腫れてしまったので、朝は目を冷やしたりと大変だったのだ。 −メグミー、明日暇でしょ?俺の買い物付き合ってよ。夏モノ買いに新宿まで出るからネ −え、そんな遠くまで行くんですか?3時間近く掛かりますよ。駅前のデパートじゃダメなんですか? −新宿にしか無いんだってば。アンタの服も買ってやるからついて来てよ −僕は今あるものだけで充分です −バーカ。タカミーにアンタの分買えって頼まれてんだって。いいから行くよ −はあ… ヘッドホンからは嗣彦の高飛車な声と、桜介の可愛らしい声が聞こえる。 会話の内容は気に食わないが、嗣彦とは慣れた関係らしく、こうした普通の会話をする桜介は新鮮で可愛らしい。 −駅前のアトレでいいのに…ね、くまさん 『くまさん!』 しかも、アキラがプレゼントした盗聴器入りのテディベアへと愚痴を零した。 その愛らしい行為に我慢出来ず、アキラはティッシュへと射精する。 −先輩が買うような服は、高校生にはまだ早いと思うんだ。くまさんだってそう思うよね 『思う!思うよ!』 心の中で応答しながら、右手は陰茎を扱きあげ、これでもかと精液を搾り出した。 物凄い達成感だ。 テディベア越しに自分は自慰をし、桜介をオカズに射精をしたというのに桜介は勿論気付いていない。この背徳感はとても大きな興奮となり、アキラの体を喜ばせた。 満足がいく射精を味わうと、早速桜介へメールを送る。 『「駅前のアトレの本屋がリニューアルして広くなったようだよ。今度二人で行ってみないかい?勿論、バレないように変装してさ」…送信っと』 わざとデパート名を出した。すると案の定、ヘッドホンの向こうで桜介が「え?」と驚愕した声を発したのが聞こえた。 その声に込み上げる愛しさを感じながら、アキラはもう一度自慰を味わう。 |