熱の条件 | ナノ






バラエティ番組でストップすると、つまらなさそうな顔で液晶を見ている。

『ストイックなんだ…』

気だるそうにしているこの同級生は、実は熱い人間なのかもしれない。
何事にも無関心、面倒くさいというポーズでいるが、そう見せているだけで夢に向かってひたむきに努力をしているのだろう。
−自分は頑張れていないって思わなきゃ、頑張れないからね。
その言葉には、桜介も共感出来る部分があり、何だか直人とだったら仲良くなれそうな気がした。

だから自然と口が開く。

「いつもそのメニューなんですか?」
「基本夜だけ。朝はガッツリ。オーディション前は朝もこんなだけど」
「更に絞るんですか?」
「そ」
「それで、運動もされているんですよね?」
「ん。ジョギングね」
「倒れてしまったり…しないんですか?」
「………」

いくつか質問をすると、何故だろうか、直人は不思議そうな顔をして桜介を凝視した。
サングラスで視線は判らないが、こっちをじっと見ている事は分かる。
今までは桜介を見ずに淡々と食事をしながら会話していたのに、突然視線を向けられ、何か変な事を訊いてしまったのかと、不安を抱いた。
だが、出てきた言葉は予想外のそれ

「やっと、僕に興味持つようになったんだ」
「?…あの、」
「てかさ、白河さんとは連絡してんの?」
「え」

また会話が飛んでしまった。
興味がどうの言った気がした途端に、話題を変えられてしまい、着いていけない。

『中野島くん、何でそんなこと…』

しかもよりによって鷹臣の名前。
今、彼の話題はしたくなかった。せっかくアキラへの幸せに満ちた心に影が落ちる。

「ラインで、少し…」
「ふーん。写真のデータ送ったんでしょ?なんか返事きた?」
「それは、」

訊かれたくないことをアッサリと訊いてくる男である。
鷹臣からの返事なんて、変なものしかないことくらい知っているのではないか。
箸の動きを止め、躊躇うように口篭ると、察してくれたらしく、「ああ、はいはい」と言われた。
それはそれで恥ずかしいものなのだ。

「恵くんさ、白河さんのこと、まだ好きになんないの?」
「え…何で、」
「やっぱ変態だから?イケメンだし、君が欲しい物なんでもくれんじゃん。でも嫌なんだ」
「顔とか、そういうのは関係ないです。プレゼントも要りません。何をされても、好きにはならないです…だって、白河先輩は酷い人だから…」
「否定しない」
「中野島くんは、何で先輩を慕ってるんですか?」
「ナイショ」
「内緒?」
「悔しいから教えない」

それだけ言うと、直人は急に不機嫌になったように黙り込んでしまった。それから会話は無く、二人は黙々と食事をした。


***


鷹臣の話をしてしまったせいだろうか、もう眠りにつくというタイミングで鷹臣からの着信にスマートフォンが震えた。

《おう》
「はい、もしもし」
《久しぶりだな》
「はい…いや、そうでもないです。一週間振りだと思います」
《久しぶりじゃねえか。ちょっと前までは毎日顔つき合わせて会話してただろ。七日も会話無しなんて無かっただろーが》
「そうですね……先輩の方はどうですか?」
《あー…メグがいなくてつまんねー。オナニーしかやる事ねーわ》
「……」
《メグがいたらそんなのしないでデート行くんだけどな》
「…大学はどうですか?以前と変わりありませんか」
《相変わらずウッゼーよ。関西の奴らって遠慮知らねぇのな。ゼロ距離で馴れ馴れしいしうるせー。メグみたいな大人しくて清楚な奴が全くいないんだよ。リーチくらいしか話相手がいないな。はー、メグが恋しくて仕方ないわ》
「藍津(あいづ)先輩とご一緒なんでしたっけ。長いお付き合いなんですね」
《奴は付き人みてーなもんだよ。はあ、女がギャーギャーうっさくて。お嬢様とか言うけど女なんて同じようなもんだな。淑やかにしてるつもりでも裏の顔がやばいのばっか。変に俺に取り入ろうとする尻軽が多いんだよ》
「そんな人ばかりではないと思います。それは一部の人だけですよ。先輩の好きな大人しくて清楚な人もいるはずです。それに先輩は目立つ人なので、注目を集めてしまうだけだと思います」
《あ?俺はメグみたいな奴が出てきても、好きなのはメグだけだぞ》
「そういう意味ではなくて、」