∴ 2 「すごい、かわいくて、綺麗だよ…」 「そんな、そんなこと、ありません…」 「本当だよ。俺はこんな綺麗な人を今まで見たことがないよ…」 「三島くん…」 それまで何度か桜介から名を呼ばれたが、今、この時の桜介から出た「三島くん」は蜜のように甘く、可憐で、朝露のように美しい。 桜介から名前を呼ばれることに今まで以上に感動した。 愛しい人間にしか見せない色気を含んだ彼の声色に、アキラはもう一度好きだと言う。 甘えるように桜介の胸元に顔を埋め、首を伸ばして唇に軽くキスをすると、今度は頭を抱えるように、アキラを抱き締めてくれた。桜介から腕を回してくれたのは初めてで歓喜するが、何故だかそれはすぐに引き離される。 「三島くんだめです、離れて!」 「え、どうして?」 「いいから、お願いっ。それ以上くっつかないで下さい…!」 アキラの肩を押し、必死に離そうとしてきたのだ。その慌てぶりは異常で、両脇腹にある桜介の脚はジタバタするように動き、腹を膝で挟んで退かそうとしてくる。 急に拒否され、アキラの顔はサーっと青くなった。 『嘘だろ…やり過ぎたか?もしかして、嫌われた…』 今まで満たされた気持ちが冷たくなっていき、絶望感が募ってくる。 『やり過ぎた。もっとちゃんと、ゆっくりするべきだっのか。そうだよな、告っていきなりキスしてぐちゃぐちゃにディープとか普通有り得ねーだろ。いくら勢いだからって…うわ、最悪だ!何やってんだ俺』 「ごめん!」 腕に力を入れ、慌てて上半身を起こし謝った。 これ以上密着して嫌われたら、元も子もない。 謝り倒してどうにか許してもらわなければ。 せっかく両想いと分かったのに、こんな事で嫌われてしまっては、これまで築いてきたものは何なのだ。やっと…やっと桜介とこれからを歩めると思っていたのに。 しかし、その焦りは違う形で払拭されるのだった。 「ぁ!んあ…!」 『え?』 起き上がろうと脚を曲げた途端、桜介が縮こまるように両手を胸の前にやり、びくん!と跳ねたのだ。 同時に発せられた甘い嬌声。 思わず動きを止めて彼の困ったような表情を見たあと、そっと視線を下へ。 すると、スラックスをゆったりと持ち上げているシルエットと、そこを押している自分の太腿が目に飛び込んで来た。 『マジかよ…』 桜介は勃起していたのだ。 「ごめんなさい…みしまくん、ごめんなさい…」 「そんな、恵くん謝らないで。大丈夫だから」 思わず目を見開いてしまったのが分かったのだろう。桜介は両手で顔を覆い、謝り出す。その姿があまりに幼くて、不安でいっぱいだった心に温かく愛おしいものが生まれた。 ひたすら桜介を可愛がりたい。 「大丈夫だよ。気持ちいいって思ってくれたってことだよね。俺は凄く嬉しいよ」 「でも、でも、みっともない…こんなときに、ぼく…」 「そんなことないよ。俺だって、興奮してる」 伝えるように、下腹部を沈め、桜介の腹にいきり勃ったそれを触れさせた。 同じだと伝え、彼の不安を少しでも取り除いてやりたいからだ。 すると、ピタリと全身を硬直させ、指の間から瞳だけを覗かせ、こちらを見上げてくる。 「ね?俺も、恵くんに興奮しているんだ」 「これ…みしまくん…」 「せっかく気持ち良くなってくれたのに、気付かなくてごめんね。俺はダメだね、好きな子の変化を気付けないなんて、本当にごめん」 「そんな、ダメじゃないです、三島くんは、んっ、凄くいい人で…僕に優しくしてくれて、カッコよくて…ぁ、ふ…ぅん…」 桜介の声色が吐息混じりに掠れて溶ける。それは、アキラの腿に彼の陰茎が触れているせいだろう。 擦ってもいないのに、軽く触れているだけで感じてしまっているらしい。 『すげー感じやすい体質とか?嘘だろ。理性持たねぇよ…』 今も充分熱いのに、一気に体温が上がり、下腹部にカァッと熱がこもった。 桜介が興奮している。その事実ががんっ、とアキラの躰にぶつかり、目眩を起こす。 なんてことだ。何処かに去ってしまっていたいやらしい気持ちが、束になって帰ってきてしまった。 桜介をいやらしく可愛がりたくて堪らない。 「苦しそうだ…可哀想…」 「ぇ?…ぁ!なに…」 手を伸ばし、桜介のその膨らみを撫でた。スラックスの上からでも判る硬さと熱量。淡白な印象だったため、この欲望の象徴には正直驚いているが、嬉しいサプライズである。 ゆっくりと陰茎を撫でると、焦ったように両手で押してくる。でもその手に力は入っておらず、形だけの抵抗に歓喜のような官能が押し寄せてきた。 |