熱の条件 | ナノ






抱き締め、桜介の香りや感触、体温を十分に感じ、桜介は自分の腕の中にいると安心しきった頃、三島アキラは腕の力を漸く緩めた。
だが彼は中々振り返らず、緊張からなのか少し奮えている。だからもう一度好きだと囁き、両手をゆっくりと撫でた。
赤い顔を俯かせ、肩越しにこちらに視線を送ってきたので、握っている手を離し、抱擁を解いた。
すると、胸の前でもじもじと両手を組みながらやっと体ごと向き直る。
大きな瞳は潤んでいて、初めて見る表情にドキリとした。

この部屋に入ってから、アキラは今までにない心拍数に驚いている。
緊張と高揚から、引切り無しに心臓はドクドクと音を立て、背中からは汗が止まらない。涼しい顔をしていても、額はうっすらと濡れていた。
桜介が近くにいるというだけで、体が面白いほど反応し、言う事をきかなくなる。その結果、あの衝動的なキスをしてしまったのだが、今ではそれが良かったのだろう。
だって、桜介はアキラが好きだと言ったのだから。
幸福感に包まれ、今まで欲望で溢れさせていた汚いものが全てリセットされたような清涼感がある。
あれだけ頭の中で犯しまくっていたのに、今では桜介へ優しくしたいという気持ちに満たされている。
優しくして、甘やかして、幸せにしてやりたいと考えているのだ。

「恵くん」
「…」

名前を呼ぶとゆっくりと顔を上げてくれる。
ずっと俯いていた桜介と目が合う。
その瞳の美しさに心が奪われる。
熱で溶けたガラスのように、とろんとして瑞々しい瞳は、アキラしか映していない。その奥には、今まで見たことがないような熱情と甘い色が混ざり合っているのが見え、彼が本当にアキラを好きな事を伝えた。

その瞳に吸い寄せられ、解いていたはずなのに、自然と腕に力が入り、桜介の体に引き寄せられる。
ゆっくりと頭が下がっていき、目線が近付いてくる。
すると、長い睫毛が徐々に下がっていき、桜介の瞳が閉じた。
だからアキラは眼鏡を外すと、再び桜介の唇に唇で触れたのだ。

「っ…」

ぴくん、と彼の肩が小さく跳ねる。
怖がらせぬようすぐに唇を離し、再び触れる。

ちゅ、ちゅ…ちゅ…

何度も啄み、その柔らかさを確かめ合う。
唇で唇を軽く挟み、少しずつ湿らせていく。すると、躊躇いがちに桜介の唇も動き、応えるように少しだけ尖らせる。
深いものへと変化する兆しを感じ、アキラの背筋が甘く奮えた。

「ん、ん…っ」

あまり上を向かせ過ぎると苦しいので、もう少し頭を下げ、桜介が呼吸しやすくして、背中を撫でる。
片手ですべすべする頬に触れ、長い指で耳たぶから耳裏を擽る。
すると、桜介の肩が再び跳ね、声が洩れた。

「ぁ…」

その吐息に溶けて消えるような儚い声。
そして微かに開いた口。
そこに滑り込ませるように舌を差し込み、温かい水飴のような甘い口腔を撫で付ける。

「んっ、ンっ、」

すぐに辿り着く舌。
どこまでもどこまでも柔らかく優しい感触のそれが気持ち良く、夢中になり絡み付くと、桜介の躰が痙攣するように跳ね出す。

「ん!ンん、ぅ、ぅ…!」

それに合わせ舌を愛撫し、裏側も舐めてアキラでいっぱいにさせた。
すると桜介の躰から力が抜け始め、沈むように腰が下がっていく。アキラも合わせて膝を曲げていき、その間もキスは続け、桜介の顔をずらさぬよう支えた。

「ん、はぁ…ぅん、ンん…」

とうとう絨毯に尻を付き、桜介の背中が壁にもたれ掛かる。
腰が抜けた割には肩や手に力が入っているようで、何かに堪えるようにアキラの学ランをギュッと握っている様が可愛い。

「んっんっ、みし、まく…んんぅ…」

唾液を漏らさぬよう全部啜り、深く舌を捻じこむ。応えようと拙い動きをしてくれるのが愛おしく、密着しようと彼の脚の間に躰を滑り込ませると、ビクビクと奮え、荒く鼻息を吐いた。
興奮してくれているのが解り、もっと気持ち良くしてあげたくて、ぐちゃぐちゃと舌で口腔を掻き回す。
気付くと、すっかり躰は横になっていて、桜介を押し倒す形で口付けをしていた。

「はあ、はあはあ…恵くん…」
「…はぁはぁ、ぁ…」

すっかり前髪は汗で濡れている。それを掻きあげ見下ろすと、桜介は目に涙を溜め、真っ赤な顔で呼吸を整えている。口元が唾液で汚れていて、扇情的だ。
頭の中での桜介より、遥かに魅惑的で美しい姿に、アキラのポーカーフェイスが崩れそうになった。