熱の条件 | ナノ







「こんな顔での挨拶でごめんなさい。恵桜介です。僕のファンクラブに入って下さりありがとうございます。えっと、大したことは出来ませんが、皆さんに楽しんでもらえるように頑張りますね」

困ったように笑いながらぺこりと頭を下げる桜介に対し、集まった面々は複雑そうな表情でこちらこそ、と頭を下げた。
F市にある市民図書館。そこの三階にある会議室を借りた三島アキラ親衛隊−基、恵桜介ファンクラブの面々は、行儀良くパイプ椅子に座りホワイトボードの前に立って挨拶をする桜介を見つめている。
額のコブは目立たなくなっているが、まだ頬には青痣が残るこの美少年とこうして交流出来るのは嬉しい。しかし心配だと言う気持ちが全面に出ているのを見て、桜介はどうするべきかと悩み、すぐそばに座る日藤祐三に視線を投げる。

「まずは、みんなが疑問に思っとるソレ。説明した方がええんやないか?」
「……そうですね」

少し気まずいな。そう思いながらもそれが筋だろうと、話せる範囲で今までのことを彼らに語った。
母親やアキラのことは伏せて、鷹臣と同室になった経緯やこれまでのこと。そしてこの怪我の原因のことも。言葉を選びながら慎重に説明した。

「え、じゃあさ、最初っから白河先輩とは付き合って無かったってことですか?ほんとに、最初から…」
「中一の頃から今もってことですよね?…マジかよ…あの人えげつねえな…」
「男同士のケンカっつっても、体格差ありすぎんだろ…それなのに手ぇ上げるってよ…結構やらかす人なのは知ってたけどそこまでイっちゃってんのか?うわぁ…」
「あの、その"脅しの内容"って僕らには教えてもらえないんですか?それをどうにか出来たら恵さんは自由なんですよね?」

三年生が中心のメンバーなのに、彼らは桜介に対して敬語を使っている。敬語はやめてくれと言いたいが、彼らの口が止まらないので、曖昧に頷くことしか出来ない。

「すみません。僕の秘密は、まだ言えません…せっかく心配して下さったのに…」
「ええよええよ。そういうんは僕らの信頼関係がちゃぁんと築けてからや」

すぐに日藤が片手を挙げてフォローしてくれた。初めて話す先輩だが、流石アキラの人選と言った感じで、しっかりしていて頼れそうだ。
因みに加藤幸典はここには居ない。彼は一階で彼女と図書館デートのふりをしながら、ほかの大和生が来ないか見張りをしている所だ。


「それよりな、今日は親睦会やで。楽しい話でもしよ。僕ら、恵くんのファン言うても君の細かいプロフィールとか知らへんし。そこんとことか話してくれたら嬉しいんやけどな」
「は、はいっ。そうですよね、せっかくですし、普通にお喋りして楽しみましょう。ずっと特定の人としか会話出来なかったので、色々お話ししたいです」

しんみりした空気を換えるように日藤はパンパン!と手を叩いた。そして座ってくれと椅子を引いて桜介を誘導してくれる。何か言いたげなメンバーも居るが、大抵の者は日藤に賛同して居住まいを正してこちらに注目してくれた。
その姿勢がなんだか嬉しい。

「プロフィールですよね、どうしようかな…」
「因みにな恵くん、ここに居るヤツらは君の熱心なクッソキモいファンばっかやで。誕生日とか血液型、得意教科なんて基本中の基本なプロフィールはお見通しや」
「えー!?じゃあ、どうしましょう…」

慌てる自分に対して小さな笑いが起きて少しだけリラックスした雰囲気になる。そのおかげで桜介の肩の力が抜けた気がした。

「あ、じゃあ質問してもいいですか?」
「は、はい!」

ひょろひょろで背がやたら高く、眼鏡をかけた先輩が挙手をした。基本、このメンバーはそんな見た目の生徒が多い。日藤の友人だからだろうか?

「あ、僕三年一組の長尾(ながお)って言います。恵さんが入学してきてから、恵さんの隠れファンをしております。ただのオタクですね、宜しくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」

自己紹介の通り、オタクっぽい先輩だ。

「この学校はイケメンだったり美しかったりする生徒には新聞部がインタビューをとり、記事にするんですが、白河先輩がそれを許可していなかったので、恵さんのインタビューを僕らは見ていません」
「あ、そうですね。新聞部の方とは話したこと無いです」
「ええそうそうはい。なので、僕らは恵さんを観察して情報交換をして、独自の恵さんプロフィールを作っていたのです。ああ!キモいですよね、そこは本当すみません!」
「ん?はあ、」

独特の喋り方をするのでいまいちよく解らないが、ある程度は自分のことを知っているのは解る。

「ですが、あくまでこれは僕らが勝手に解釈して「これが好きだろう」とか「これが苦手だろう」と決めつけているだけなんですよね。ええ、そうそう。なので、僕らが作った恵さんプロフィールと、恵さんの本当のプロフィールで齟齬があるのか知りたいのですが、教えていただいてもいいですか?」
「あ、はい、大丈夫です!」