∴ 3 「雨の中、助けてもらったのと、泊めてもらったのの」 「ええ〜そんなのいいよぉ?」 「でもかなり迷惑かけたんで、良かったら」 「ほんとに?嬉しいなぁ。ありがとぉ」 力なくにへらと笑うと、彼は丁寧にリボンをほどいていく。細い指がゆっくりと上品に動く様子はとても繊細で美しく見えた。 「あれ、なんだろう?服?」 「ダッフィーの服です。友達に、オリジナルのダッフィーの服作ってハンクライベとかで売ってる奴がいて、その人から買いました」 「そうなんだー!すごいね、かわいいよ。わ!二着もあるよ?」 「一応メンズとレディースです」 「うそー?嬉しい。ありがとう!」 早速着せるね、と花織は棚の上にいるダッフィーを下ろして袖に手を突っ込んだ。 直人は、ディズニーキャラクターが好きというのを思い出し、この前の休日にこの服を買いに出かけた。 職業柄かデザイナーや造形、服飾に関わる友達が多いので、このようなプレゼントを用意できたのである。 因みにメンズは赤いスパンコールジャケットに、黒のスパンコールのハット。レディースは、アイドルのステージ衣装のように膨らんだスカートのワンピースで、色は濃いめのピンク。頭に飾る用の黒いリボンもある。こちらもスパンコールだ。 「わあすごい!キラキラでとてもキレイだね。かわいいー」 「あと僕も少し手を加えました。裏地んとこ、幾森さんのイニシャル入れたんで」 「え?あ、ホントだ」 単純に買うだけではつまらないので、服の裏側にはk・iとイニシャルの刺繍を入れた。そして、もう二つある。 「それとアクセサリーです。男の子の方はループタイと、女の子の方はネックレスで…」 「え、え、うわー!これもかわいいね!」 黒い革と透明なジルコニアのループタイと、お揃いのジルコニアのネックレスを渡すと、花織の大きくてキラキラとした瞳が更にキラキラと輝く。すごい、かわいいを繰り返しながらダッフィーに付けて、写メを撮る彼の姿は年上に見えなくて可愛い。 子供のように素直に喜んでくれている姿を見て、無意識に表情が綻んでいく。 「ねえねえこれ、ラインにのせていい?ちょーかわいいからディズニー仲間に自慢したいんだぁ」 「いいっすよ。幾森さんラインしてんすね」 「してるよぉ。マサトくんもしてる?良かったらIDおしえて?」 「あ、はい。じゃ、振るんで」 「ん、お願い。…あ、きた。めがねアイコン?」 「それです」 簡単にライン交換をしてしまった。 こんなに自然にしてしまえるものなのだろうか? 『は?していいに決まってんじゃん。別にやましいことないし、フツーに友達?ならさ…あれ、友達?トモダチ?』 ……凄いことに気付いたぞ。 ラインを交換したということは、お礼を渡してはい、終わり。という関係ではないということ。 これからも関係が続いていくということではないのか? そう、期待してもいいのではないのか? 『って、期待ってなんだよ。何に期待すんだよ』 なんだろう、今日の自分は自分に対してツッコミ所が多すぎる。 直人は落ち着くために眼鏡をずらして眉間を揉み、ゆっくりと息を吐いた。 するとひとしきり写メして満足したのだろうか、花織がこちらへ向き直る。 「マサトくんはディズニーにはよくいくの?」 「………」 突拍子もない質問だ。 中野島直人がディズニーランド?嗣彦や鴻一が聞いたから爆笑するだろう。 「前は行ってたけど…今は行かないですね。男だけだと、行く機会ないし」 彼女がいた頃は行っていたけれど、どうもその話を花織にするのは躊躇ってしまう。 「えー?男の子同士で行かない?」 「行かないっすよ。あれは男女グループとか、カップルとかが行く場所じゃないんすか?」 男の子同士…浮かんだ面子を見てナイナイナイと否定した。 「そうなんだ。俺はあまり気にしないでいっちゃうなぁ。でもそうだよね、普通は女の子といくよね。カノジョはいないの?」 「いないっすよ。昔は居たけど、もういません」 「えー意外。ほんとぉ?」 「マジです」 だって、桜介が好きだったから−… 「一年近くいな…」 言葉が消えて、はっとしたように直人は口を閉ざした。 『え、あれ…何考えてんだ』 |