熱の条件 | ナノ






「雨の中、助けてもらったのと、泊めてもらったのの」
「ええ〜そんなのいいよぉ?」
「でもかなり迷惑かけたんで、良かったら」
「ほんとに?嬉しいなぁ。ありがとぉ」

力なくにへらと笑うと、彼は丁寧にリボンをほどいていく。細い指がゆっくりと上品に動く様子はとても繊細で美しく見えた。

「あれ、なんだろう?服?」
「ダッフィーの服です。友達に、オリジナルのダッフィーの服作ってハンクライベとかで売ってる奴がいて、その人から買いました」
「そうなんだー!すごいね、かわいいよ。わ!二着もあるよ?」
「一応メンズとレディースです」
「うそー?嬉しい。ありがとう!」

早速着せるね、と花織は棚の上にいるダッフィーを下ろして袖に手を突っ込んだ。

直人は、ディズニーキャラクターが好きというのを思い出し、この前の休日にこの服を買いに出かけた。
職業柄かデザイナーや造形、服飾に関わる友達が多いので、このようなプレゼントを用意できたのである。
因みにメンズは赤いスパンコールジャケットに、黒のスパンコールのハット。レディースは、アイドルのステージ衣装のように膨らんだスカートのワンピースで、色は濃いめのピンク。頭に飾る用の黒いリボンもある。こちらもスパンコールだ。

「わあすごい!キラキラでとてもキレイだね。かわいいー」
「あと僕も少し手を加えました。裏地んとこ、幾森さんのイニシャル入れたんで」
「え?あ、ホントだ」

単純に買うだけではつまらないので、服の裏側にはk・iとイニシャルの刺繍を入れた。そして、もう二つある。

「それとアクセサリーです。男の子の方はループタイと、女の子の方はネックレスで…」
「え、え、うわー!これもかわいいね!」

黒い革と透明なジルコニアのループタイと、お揃いのジルコニアのネックレスを渡すと、花織の大きくてキラキラとした瞳が更にキラキラと輝く。すごい、かわいいを繰り返しながらダッフィーに付けて、写メを撮る彼の姿は年上に見えなくて可愛い。
子供のように素直に喜んでくれている姿を見て、無意識に表情が綻んでいく。

「ねえねえこれ、ラインにのせていい?ちょーかわいいからディズニー仲間に自慢したいんだぁ」
「いいっすよ。幾森さんラインしてんすね」
「してるよぉ。マサトくんもしてる?良かったらIDおしえて?」
「あ、はい。じゃ、振るんで」
「ん、お願い。…あ、きた。めがねアイコン?」
「それです」

簡単にライン交換をしてしまった。
こんなに自然にしてしまえるものなのだろうか?

『は?していいに決まってんじゃん。別にやましいことないし、フツーに友達?ならさ…あれ、友達?トモダチ?』

……凄いことに気付いたぞ。
ラインを交換したということは、お礼を渡してはい、終わり。という関係ではないということ。
これからも関係が続いていくということではないのか?
そう、期待してもいいのではないのか?

『って、期待ってなんだよ。何に期待すんだよ』

なんだろう、今日の自分は自分に対してツッコミ所が多すぎる。
直人は落ち着くために眼鏡をずらして眉間を揉み、ゆっくりと息を吐いた。
するとひとしきり写メして満足したのだろうか、花織がこちらへ向き直る。

「マサトくんはディズニーにはよくいくの?」
「………」

突拍子もない質問だ。
中野島直人がディズニーランド?嗣彦や鴻一が聞いたから爆笑するだろう。

「前は行ってたけど…今は行かないですね。男だけだと、行く機会ないし」

彼女がいた頃は行っていたけれど、どうもその話を花織にするのは躊躇ってしまう。

「えー?男の子同士で行かない?」
「行かないっすよ。あれは男女グループとか、カップルとかが行く場所じゃないんすか?」

男の子同士…浮かんだ面子を見てナイナイナイと否定した。

「そうなんだ。俺はあまり気にしないでいっちゃうなぁ。でもそうだよね、普通は女の子といくよね。カノジョはいないの?」
「いないっすよ。昔は居たけど、もういません」
「えー意外。ほんとぉ?」
「マジです」

だって、桜介が好きだったから−…

「一年近くいな…」

言葉が消えて、はっとしたように直人は口を閉ざした。

『え、あれ…何考えてんだ』