熱の条件 | ナノ







「僕たち、深く繋がっていると思っています。僕はずっとアキラくんの事を考えているし、アキラくんもそうでしょう?お互いがちゃんとお互いを想っている。思いやりもあるし、愛情が確かに存在しています。
僕はアキラくんになら何をされてもいいし、アキラくんの言うことなら、全て聞きたいと思っています。アキラくんに何かあったら助けたいし、アキラくんもそう思ってくれていますよね?でも、僕もアキラくんも、お互いのことはちゃんと知らないですよね。…お互いの子供の頃の話とか、家族のこととか…アキラくんの前の学校のことは、新聞部の記事でしか知りません。直接、アキラくんの口からは聞いていません」
「桜、それは…」
「いいんです。それは僕も同じなんです」

ゆるく頭をふり否定する。声は微かに震えていた。

「大和に入る前の僕の話はしていません。…それは、意図的に隠していたからです。アキラくんに話していいのか判らなくて、そういう話題は避けてきました。
だから、アキラくんの過去もこちらから訊かないようにしていました。それがいけなかったんです。過去に何かがあったとしても、僕に対しての気持ちは変わらない。と以前言ってくれたのに、僕はアキラくんに何も話していません。信用をしていなかったんです」

桜介は関係ないんだ。そう否定をしようとしたが、彼の言葉に飲まれて何も言えなくなってしまった。

そうだ。アキラは甘えていた。
桜介が昔のことを話さないから、アキラも語らずに済んだのだ。いくら完璧な筋書きを作り、周りを楽しませ、納得させたとしても、それは正真正銘の"嘘"だから。
桜介には嘘を言いたくなかった。だから自分でも気づかぬ内に、昔の話は避けてきていた。

それをこの愛しい恋人は薄々気づいていたのだろう。そして、暗所恐怖症だと言われ、その違和感から目を背けられなくなったのだ。

「だって、普通はそんな大切なことを恋人に黙っている訳ないじゃないか。一緒にいれば昨日のようなトラブルは起こりうることだから、交際が決まって「実はね」と話すべきことである。でも、アキラがそれを話してくれなかったのは、自分も何も話していなかったからだ」桜介はそう考えたらしい。

「僕に遠慮しないでみっともない姿を見せて下さい。僕も見せます。僕、全部話しますから…」
「桜?」

顔を上げた桜介は大きな瞳に力を宿し、何かを決心したように輝いた。
瞳の中にモンスターが住んでいるみたいに強く、ブレがない。

『全部?全部ってなんだ…白河鷹臣との関係か…ううん、それじゃないな。多分、もっと違うことだ』

もっと深く、もっと奥の方。鷹臣を通り越して更に深い部分だ。
おそらく、彼が大和に入るもっと前の話…

見つめ返すと、桜介はごくりと生唾を飲み、静かに鼻から息を吸う。
そして…

「…僕、恵桜介は、女優の保栖夏奈子の隠し子です」