∴ 2 アキラからの怪しい誘いに、一瞬緊張が走り、桜介の思考を停止させる。 「恰好って…まだ制服のままです…」 《そうなんだ。そうだね、じゃあまずは、シャツのボタンを外して?》 「本当に?」 《うん》 このままセックスということは、言葉の通り電話越しにするということだろう。 アキラの指示通りに桜介が動き、アキラの指示通りに自身に触れるということに違いない。 『こんなこと…したことない。恥ずかしい…でも、アキラくんが僕に命令してくれる…久しぶりのアキラくんからの…』 緊張で躰は強ばるが、思考は桃色に染まっていく。 それしか考えられず、スマートフォンをベッドに置き、奮える指でボタンを外す。半ば、穴から無理矢理引き抜く感じになった。心が急いて、丁寧になんて出来ない。 全て外し終えると通話が出来るようにそのまま横に倒れ、「外しました」と報告した。 《偉いね。じゃあ上半身、裸になろうね。インナーも脱いでね》 「上、全部脱ぐんですか?」 《そうだよ。上を脱いだら、下もね。勿論、パンツも靴下も、全部だよ》 「……はい」 まだ何もしていないのに、額が汗で濡れている。もう足の間にあるものが期待で膨らんで痛い。 もたもたと袖から腕を抜くと、空気がヒヤリと張りついた。窓の方を見るといつの間にか雨が降っている。あさましく火照った躰には丁度良い涼しさだ。 「…脱ぎました…」 《桜の真っ白な肌、ちゃんと出してる?》 「だ、出してます…」 一糸纏わぬ姿…上も、下も、何も身につけていない。 じわぁ、と汗が滲み、首筋を滑った。 こんなに興奮してしまっているのに、アキラの声はまだ冷静で、その温度差にも性的なものを感じてしまう。 《誰もいない部屋で、一人で?》 「ぁ、はい…ンっ」 誰もいない部屋で一人で全裸に… 彼の言葉で、その事実が官能となり桜介に認知される。 嗚呼、一人部屋ではないというのに、自分はなんて恰好をしているのだろう。しかも、陰茎は既に勃起していて濡れてしまっている。凄い、変態みたいだ… そう考えるだけで、背筋が奮えた。 『裸でいるだけなのに…男なら普通なのに、エッチだよぉ…』 風呂上りに全裸で出てくる嗣彦を何度も見ている。 男なら部屋を全裸でうろつくのなんてどうってことはない。当たり前な行為だ。 それなのに、桜介は違う。桜介はそういう意味での裸ではない。 電話の向こうの恋人とセックスする為の裸なのだから… 《いい子だね。ちゃんと制服脱いだんだ?偉いよ…ちゅっ》 「ん、あきらくん…」 受話越しのリップ音に、喉がヒクリとした。本当に耳にキスをされたみたいだ。 アキラの卑猥な命令は止まらず、桜介の期待に応えるように、彼は遠慮なく口を開く。 《籠原先輩、暫く戻らないんだよね?》 「そうです」 《じゃあ、少し開放的になってみようか?部屋のドア、全部開けて?リビングへのドアは勿論、廊下へのドアもだよ。全てだ》 「え、ぁ…」 《玄関開けられたら…って考えると、凄くエッチな気分にならないかな?桜は、そういうプレイは嫌い?》 「ふぁ…ん、あきらくんが、することなら…嫌いになりません…」 《うん、ありがとう。じゃあ、そうしてみて?》 「はい…」 −大丈夫、来客がある場合は、インターホンが鳴らされるから。 そう言われ、確かにそうだと納得する。インターホンが鳴っても無視をしたらいいし、気になるならすぐに部屋のドアを閉めればいいだけだ。 これはごっこ遊び。アキラが施すプレイの一環であると思うと、カウパーが止まらなくなり、ぽたぽたと垂れて太腿や廊下を汚した。 歩く度に睾丸が揺れてしまうことにすら感じるくらい、躰が過敏になってしまっている。 餓えた犬のようにハアハアと呼吸を荒げ、玄関以外の全てのドアを開け放つと、ベッドへと仰向けに寝転び、突き出すように足をM字に開いた。 ベッドの位置のせいか、足は部屋の入り口へと向いている。このまま玄関が開けられたら、一直線に桜介の股間が見えるだろう。 触ってもいないのに、ピンっと勃たせてカウパーを垂れ流す恥ずかしい場所を、一目で見られてしまうのだ。 「ぁ、はぁん…ん」 《ちゃんと、開けた?》 「はい、」 スマートフォンになるべく頬を付けるように顔を傾け、目を閉じて頷く。 恥ずかしさを紛らわせるためと、目を閉じることによってアキラが近くにいると妄想出来るからだ。 |