∴ 1 部屋に戻ると、嗣彦は居なかった。テーブルの上には置き手紙があり、「会長の部屋で生徒会の仕事してる。順調に行けば八時に部屋戻るかも。玄関にナオトに貸すDVDが入った袋があるから、鍵は開けといてねー」とのこと。 嗣彦は直人の事をいつもマサトではなく、ナオトと呼ぶ。本人は嫌がっているのだから、いい加減にしないと本気で怒られるぞ、と思った。 『はあ、これならアキラくんと過ごしたいな…』 嗣彦がいないのなら、今からでもアキラと過ごせるのではないか。今日は温室を少し見ただけだったし、まだまだ時間はある。なんて考えながら、自室のベッドで横になりながらスマートフォンを見つめた。 躰が…熱い。 アキラから、自慰を禁止されているため、会えない今、躰が苛まれるばかりだ。 会えないから余計に欲求は溜まるし、どんどんといやらしく変化していく気がする。常にアキラに触れられている妄想をしてしまっているし、教室でアキラを見るだけで瞳が潤むのが分かる。 授業中だというのに勃起してしまった事だって何度も… 『前は、こんなことなかったのに』 溜め過ぎて躰がおかしくなってしまったみたいだ。 気が付くと、陰茎は熱を持っているし、睾丸が重たい。精液が溜まっている事が充分に判る。このままだと、いずれ夢精という情けないことをしてしまいそうだ。 『でも…』 アキラとの約束は破らない。絶対に。 熱を持って辛いけれど、アキラに約束という戒めをされていると思うと、嬉しいのだ。 大好きな人にいやらしい命令をされていると思うと、嬉しくて仕方が無い。それが辛いことだとしても、今の桜介には歓喜でしかない。 恋焦がれたアキラにされることなら、何でもいい。 「アキラくぅん…」 思わず、彼を思って名を口にすると、タイミング良くスマートフォンが震えだした。 着信は、三島アキラ。 「!?も、もしもし!?」 《もしもし。桜、今少し平気?》 「あ、だ、大丈夫です!今、部屋にいて一人なんで、平気です!」 何故か変に緊張して、起き上がってしまう。スマートフォン越しに聞こえるアキラの声は、いつも聞いているものと違い、少し掠れてセクシーだ。 《籠原先輩は?》 「えっと、会長のところに行っていて、今留守です。八時まで戻らないって置き手紙ありました」 《そう、じゃあ少しは余裕持っておしゃべり出来るんだね。…嗚呼、ごめん桜。こんなイイ時なのに、俺、用事あって会えないんだ。これから部屋に橋本達が来るから、ちょっと片付けなければいけなくてね》 「いいんです。大丈夫です。アキラくんとゆっくりお話出来るだけで、僕は嬉しいですよ」 《俺も嬉しいよ。…実は凄く寂しいんだ。桜が足りない》 −きゅぅんっ 胸がきゅっと締め付けられる。 アキラの寂しいという声が本当に寂しそうで切ない。語尾が小声になり、溶けていくような感じが、桜介の心を揺さぶる。 「僕も…寂しいです。僕のせいで、ずっと会えなくて…」 《それは違うよ、誰も悪くないんだ。桜のせいでもないし、花壇の世話を決定した籠原先輩のせいでもないよ。誰のせいでもない。ただ、タイミングが悪いだけだよ。それだけさ》 「でも……僕、」 《……うん、解ってる。桜が言いたいことは、きっと俺も言いたいことだから》 −嗚呼、切ない。 今すぐアキラを抱きしめて、あの美しい形の唇にキスをして、彼の胸に頬ずりをし、沢山甘えたい。 そして沢山愛し合い、彼の愛情に溺れ、はしたない姿を見てもらいたい。 裏校則さえなければ、この部屋を飛び出して、アキラの部屋に引っ越すというのに。 桜介は、涙が滲みそうになる瞳を擦り、小さな声でアキラを呼ぶ。 すると、優しい声で「なぁに?」と聞き返してくれる。だから、桜介は素直に口を開いた。 躰が熱い、と。 《うん、そっか……じゃあ、俺が声で桜を愛してあげるから…》 「なに、こえ…?」 《そうだよ。このまま、セックスしよう》 「っ……!!」 予想外の彼の言葉に、指先がピクリと奮えた。 −このまま、セックスしよう そこだけ、アキラの声が変わり、これでもかと桜介の鼓膜を刺激する。 いつもより少し低く、そして掠れたような色気を含むもので、まるで直接耳に唇を押し付けて囁かれたみたいで、躰が硬直した。 「この、まま…?」 《そう。ああ、やりにくいだろうから、ハンズフリーにしてもいいからね》 「アキラくん、何…」 《桜、今どんな恰好しているの?俺は、部屋着に着替えてて、Tシャツとスエットだよ》 「っ……」 |