熱の条件 | ナノ







部屋に戻ると、嗣彦は居なかった。テーブルの上には置き手紙があり、「会長の部屋で生徒会の仕事してる。順調に行けば八時に部屋戻るかも。玄関にナオトに貸すDVDが入った袋があるから、鍵は開けといてねー」とのこと。
嗣彦は直人の事をいつもマサトではなく、ナオトと呼ぶ。本人は嫌がっているのだから、いい加減にしないと本気で怒られるぞ、と思った。

『はあ、これならアキラくんと過ごしたいな…』

嗣彦がいないのなら、今からでもアキラと過ごせるのではないか。今日は温室を少し見ただけだったし、まだまだ時間はある。なんて考えながら、自室のベッドで横になりながらスマートフォンを見つめた。

躰が…熱い。
アキラから、自慰を禁止されているため、会えない今、躰が苛まれるばかりだ。
会えないから余計に欲求は溜まるし、どんどんといやらしく変化していく気がする。常にアキラに触れられている妄想をしてしまっているし、教室でアキラを見るだけで瞳が潤むのが分かる。
授業中だというのに勃起してしまった事だって何度も…

『前は、こんなことなかったのに』

溜め過ぎて躰がおかしくなってしまったみたいだ。
気が付くと、陰茎は熱を持っているし、睾丸が重たい。精液が溜まっている事が充分に判る。このままだと、いずれ夢精という情けないことをしてしまいそうだ。

『でも…』

アキラとの約束は破らない。絶対に。
熱を持って辛いけれど、アキラに約束という戒めをされていると思うと、嬉しいのだ。
大好きな人にいやらしい命令をされていると思うと、嬉しくて仕方が無い。それが辛いことだとしても、今の桜介には歓喜でしかない。
恋焦がれたアキラにされることなら、何でもいい。

「アキラくぅん…」

思わず、彼を思って名を口にすると、タイミング良くスマートフォンが震えだした。
着信は、三島アキラ。

「!?も、もしもし!?」
《もしもし。桜、今少し平気?》
「あ、だ、大丈夫です!今、部屋にいて一人なんで、平気です!」

何故か変に緊張して、起き上がってしまう。スマートフォン越しに聞こえるアキラの声は、いつも聞いているものと違い、少し掠れてセクシーだ。

《籠原先輩は?》
「えっと、会長のところに行っていて、今留守です。八時まで戻らないって置き手紙ありました」
《そう、じゃあ少しは余裕持っておしゃべり出来るんだね。…嗚呼、ごめん桜。こんなイイ時なのに、俺、用事あって会えないんだ。これから部屋に橋本達が来るから、ちょっと片付けなければいけなくてね》
「いいんです。大丈夫です。アキラくんとゆっくりお話出来るだけで、僕は嬉しいですよ」
《俺も嬉しいよ。…実は凄く寂しいんだ。桜が足りない》

−きゅぅんっ

胸がきゅっと締め付けられる。
アキラの寂しいという声が本当に寂しそうで切ない。語尾が小声になり、溶けていくような感じが、桜介の心を揺さぶる。

「僕も…寂しいです。僕のせいで、ずっと会えなくて…」
《それは違うよ、誰も悪くないんだ。桜のせいでもないし、花壇の世話を決定した籠原先輩のせいでもないよ。誰のせいでもない。ただ、タイミングが悪いだけだよ。それだけさ》
「でも……僕、」
《……うん、解ってる。桜が言いたいことは、きっと俺も言いたいことだから》

−嗚呼、切ない。
今すぐアキラを抱きしめて、あの美しい形の唇にキスをして、彼の胸に頬ずりをし、沢山甘えたい。
そして沢山愛し合い、彼の愛情に溺れ、はしたない姿を見てもらいたい。
裏校則さえなければ、この部屋を飛び出して、アキラの部屋に引っ越すというのに。
桜介は、涙が滲みそうになる瞳を擦り、小さな声でアキラを呼ぶ。
すると、優しい声で「なぁに?」と聞き返してくれる。だから、桜介は素直に口を開いた。

躰が熱い、と。

《うん、そっか……じゃあ、俺が声で桜を愛してあげるから…》
「なに、こえ…?」
《そうだよ。このまま、セックスしよう》
「っ……!!」

予想外の彼の言葉に、指先がピクリと奮えた。
−このまま、セックスしよう
そこだけ、アキラの声が変わり、これでもかと桜介の鼓膜を刺激する。
いつもより少し低く、そして掠れたような色気を含むもので、まるで直接耳に唇を押し付けて囁かれたみたいで、躰が硬直した。

「この、まま…?」
《そう。ああ、やりにくいだろうから、ハンズフリーにしてもいいからね》
「アキラくん、何…」
《桜、今どんな恰好しているの?俺は、部屋着に着替えてて、Tシャツとスエットだよ》
「っ……」