07.
『…何やねん、今の』
「うん?何の話しや白石」
財前に彼女を託せば瞠若を見せたけどそれも一瞬で、直ぐ様いつもの飄々とした顔に戻ったら資料室を出て行った。
その代わり、今度はまた白石が憂愁を向けて来る。やっぱり白石の前では余計な事を言うもんやない。
『誤魔化すならそれでもええけど、不自然過ぎやでオサムちゃん』
「そうかぁ?オサムちゃんはただ財前君に大事な妹の事お願いしただけなんやけどなぁ」
『フーン…』
「また含みある物言いしてから怖いなぁ!」
『ほな言うてええの?オサムちゃんが名前から離れるって事』
「………………」
ほんま白石は歳不相応や。人の気持ちを解ってやれるのはええ特技やけど大人には苦いもんやで?
何でもかんでも理解されると向ける顔も無いんやから。それすら分かって言うとるんやろうけどな、白石の場合は。
『オサムちゃんが離れなあかん理由ある?』
「普通に考えるとキョーダイでも度超えてるからなぁ」
『シスコンとかブラコン気にしてるん?』
「…俺は、ええねんけど。名前ちゃんの事考えるとあかんやろ?」
『何で?』
「いつまでもお兄ちゃんの後を着いて回ってたら彼氏も、この先結婚したら旦那さんも良い迷惑やしなぁ?」
『…………………』
「キョーダイ仲睦まじいっちゅうのはええ事でも、名前ちゃんにも優先順位を覚えて貰わなな」
いつも、やねん。
いつも昔から良い事があれば俺に一番に伝えに来る。哀しい事があってもそう。
嬉しさも楽しさも哀しさも、半分こして分け合ったら2人で幸せになって辛さも半減するから。それを教えたのも俺。
間違えた事を言うたつもりない。せやけど財前ていう存在が出来た以上、財前より先に俺が来る事は間違いやねん。
『オサムちゃんが決めたなら俺やって野暮な事は言わへんけど』
「そうそうそういう事や」
『でも、な…』
「ん?」
『もしそれが、名前の為にやなくて自分の為に、っちゅう話しなら俺は遠慮せえへん』
「――――――――」
彼女の為、あの子を想ってこそ。
そう信じてたしそう誓ってたのに、白石の言葉で煙草を落としそうになって。それに気付かへんフリして『オサムちゃんに限って無いやろうけどな』なんてフォローを入れられたのはキツかった。
『余計なお世話やけどついでにもうひとつだけ』
「、」
『待ち受け、あれはそのままでええと思うで』
「……………………」
白石は、敵味方の線引きさえ出来れば容赦無い。俺の為に向けられた様な言葉に聞こえてもあれは嫌味やねんもんな。
「画像消した事も知っとるくせに手厳しいもんや」
再び静寂に戻った部屋で、開きっ放しの携帯を内ポケットに戻しながら首を振る。
自分の為じゃない。本当に、彼女の為。
彼女に寄り添って居たかったのは誰より自分だから。
(20111203)
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