03.
応援すると彼女に誓った翌日、早速彼女は幸せ満面で駆け寄って来た。言葉にする以前に分かってしまうその笑顔は俺がずっと見たかったもの。
でも、愛しい笑顔は俺の心臓を針で刺した気がする。
『オサムちゃん、アタシこれからどうすれば良いのかな?嬉し過ぎて頭可笑しい!』
「ハハッ!財前も名前ちゃんがそうしてるだけで嬉しいんとちゃうかぁ?」
『や、やだなぁオサムちゃんてば!照れるじゃんか!』
「オサムちゃんのが恥ずかしくなってくるでぇ?」
『へへ、幸せのお裾分け?』
「あーめっちゃ来た、幸せ来たでぇ!」
『やっぱり幸せは半分個だよね!』
『はいはい。オサムちゃんも名前もブラコンシスコンはそこまでにして朝練やで』
『あ、蔵ーおはよう』
『はいおはよう。名前はボール、オサムちゃんは今日のメニュー出しなさい』
敢えてタイミングを狙ったんか、彼女の報告が終わったところで白石が割って入った。今の俺にはそれさえ助け船に感じて白石の察しの良さに胸中でだけ感謝を告げる。
彼女の幸せは俺の幸せ、ベタな発言やとしても俺はほんまにそう思ってるしそうでありたい。せやけどやっぱり苦しい、のも事実で、ソレに慣れる時間を与えて欲しかったんや。
『はーい、じゃあボール出して来ます!』
『行ってらっしゃい、無理に運んで怪我せえへんように!…で、オサムちゃん』
「うんー?」
『名前は財前と上手くいったんや?』
「みたいやでぇ?兄貴としても失恋して泣くのは見たくなかったから安心したわ」
『せやな、良かったな。ほんまに兄貴としての話しやけど』
「なんやぁ?白石は意味深な言い方するんやな?」
『そんな事ないで?俺は一番可愛い子だけの味方やねんもん』
「やっぱりオサムちゃんの妹は可愛いっちゅう事やな!」
『……………………』
今回だけやなくて、白石の察しの良さには救われる事が何度もあった。せやけど確信を突く様で突かへんところは厭に大人びて、こっちが子供なんとちゃうかって思わされる。仮にそうやとしても俺やって譲られへんから仕方ないんやけど。
『…俺はアイツより、大の大人の男が泣くとこなんや見たくないからな』
「、」
『ほなメニュー出して、練習すんで!』
「お、おう…」
少し、肩が跳ねた。
察しが良いどころか見透かされてるなんや背中が痒い。泣く、なんて子供じゃあるまいし況してや柄でも無い。それでも泣きたいくらいに溢れた靄を何処に向けて霧散させたらええんか分からへん。
だけど俺は彼女を護る為に兄の顔を貫くって決めたんやから。白石に言われる迄も無く俺は彼女に微笑むだけや。
「白石、これ今日のノルマな」
しわくちゃになったメニュー表をポケットから出して、改めて彼女が笑える為だけに生きると、そう込めて白石の手に預けた。
(20111203)
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