抱きしめて×抱きしめた | ナノ


 


 19.



(side/shiraishi)


オサムちゃんのお見合いの日、やっぱり俺自身もどうなるか気掛かりやった。
名前を一番に、オサムちゃんも財前も、3人が心配やった。
昨日の様子では名前はまだ何も知らへんみたいやったし、財前はどないするんやろうか。

せやけど…もしかすればこのまま知らへんままのが最善の選択なんかもしれへん。オサムちゃんに限って無いんやろうけど、もし見合い相手と続く事になればその時は上手く伝えるやろうし、断るならそれこそ知らへんでも問題無い。
但し、それは名前が財前と付き合って行く事を仮定とした話しや。
もし、もしもそうやない場合は……


「、あれ…」


そんなどうしようも無い考えを巡らせて、家でじっと落ち着いてもられへんかった俺が散歩しながら本屋へと向かってる時やった。
近所の土手で小さくなってる背中を見付けた。


「名前?」

『!』

「―――………」


肩を跳ねて振り返った顔は赤くて、グシャグシャになってた。
っちゅう事は、今日の事、財前から聞いたんやんな?


「隣、座ってもええ?」


黙って頷く彼女に少し安堵を浮かべてゆっくり草へ腰を下ろす。


「今日は財前と一緒なんちゃうの?」

『あ…お、置いて来ちゃった…』

「え、置いて来たって…」

『蔵も、知ってるんでしょ、今日が何の日なのか』


そ、か。ほな、財前と見に行ったって事なんや。それで動揺して、財前の事忘れてしもたんやな。
家でじっとしてなくて正解やった。


「名前は、今日見に行ってどう思ったん?」

『……酷いって思った』

「勝手にお見合いしたから?」

『うん。でも、知らずに光と遊べるって浮かれてた自分が酷いとも思った』

「……知らへんかったなら、しゃーない、とも思うけど」

『だけど!アタシ、もしかしたらオサムちゃんが今日は光とゆっくり遊べって意味で休みにしてくれたのかもって自惚れてたもん!』

「それはな、間違いやないと思うで?」

『え、』

「オサムちゃんは誰より名前の事考えてるやろ?」

『……………………』

「せやなかったら明日まで休みにせえへん。自分の事はついでなんちゃうかな」

『………でも、やっぱり悔しいよ…』


言いながら、赤い眼はまた涙を溜めた。
勿論言いたい事は分かる。急にオサムちゃんが離れて行って、更に自分が知らない所でのお見合い。オサムちゃんにとって自分がどんな位置に居るかも迷いたくなるし、それやのに自分を一番に思ってくれる、その矛盾さが悔しくて、辛くて、切ないんや。


「なぁ名前?」

『、』

「オサムちゃんは何で言わへんかったんやろ?」

『…別に、言う事でもない、とか』

「結果はどうあれ、余計な気を回させたくなかったんやと思う。断って当然くらいのものやって聞いたから、それなら尚更、オサムちゃんの事は気にせんで財前と仲良くやって欲しいって」

『アタシはそれなら逆に、言ってくれたらって…』

「…せやけどな。オサムちゃんやって人間なんやから会って話しすれば結果が覆るかもしれへん」

『そ、それって、』

「オサムちゃんがお見合い相手と上手く行く可能性やって0ではないって事や」

『―――――――』

「お見合いの事、今迄知らへんかった言うたって、名前はその時喜んであげられるやんな?」


我ながら狡い言い方やと思う。
誘導尋問もええとこやし、即答出来ひんなんて俺は知ってるのに。せやけど、今すぐやなくても少しずつ、名前も自分の気持ちを見つめ直さなあかんから。


『…わ、分かんないよそんなの…』

「何で?オサムちゃんの好きな人やで?名前やって財前と上手く行った時、オサムちゃんが一緒に喜んでくれたやろ?」

『、でもそれは、前もって光が好きだから告白するって伝えてたし、オサムちゃんも光の事知ってるじゃん!そうだよ、アタシが知らない女の人だもん、どんな人か見極めなきゃお祝い出来ない!』

「せやったら、もしその相手に問題あったら引き離してしまうん?」

『、………………』

「名前は財前と付き合うてるのに?オサムちゃんは駄目なん?」

『………わ、分かんない!急に言われても分かんないって、言ってじゃんか…!』


混乱状態な泣き顔を隠す様に膝を抱えて震える背中。
それを見ると名前もオサムちゃんも財前も、3人共に哀愁を思ってしまう。切れない家族の絆にもがく財前と、絆に恋愛を抱いたオサムちゃんと、財前もオサムちゃんも好きで一緒が良い名前。
彼女がこうなってしもたんはオサムちゃんの責任でもあるし、当時の環境を思えばオサムちゃんの行動やって間違いやない。それに財前やって、普通に出逢って普通に恋愛をしただけや。例え、彼女が少し特殊やとしても。


「ごめんな、ちょっと言い過ぎてしもたみたいやわ」

『、』

「今の名前にとっては、財前も特別でオサムちゃんも特別で、2人に違う特別な好きって感情を持ってるんやもんな?」

『…うん……』

「俺は、好きって気持ちが多いのは悪い事やないとは思うんやけど…せやけどやっぱりいつかは、好きの気持ちを割り切らなあかん時やって来るんやと思うから」

『割り、切る?』

「今は分からへんと思うからな、ゆっくり考えたらええよ?財前の事を好きな気持ちと、オサムちゃんの事が好きな気持ちを何処に向いてるんかって」


兎に角、今はどうしたいか考えて行動せなあかんよ
ずっと此処に居る訳には行かへんのやから。そう言って頭を撫でてやれば漸く顔を上げて頷いてくれた。

改めて彼女のオサムちゃんに対する愛情が深過ぎる事を感じて、せやからきっと今日の俺の話しは彼女に半分くらいしか伝わって無いやろう。でもいつかはどちらかと完璧に離れても大丈夫な覚悟が付く様に。俺はその為に道を作ってあげられたら、それだけで良い。
それが俺から彼女に向ける情愛。


(20120928)







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