抱きしめて×抱きしめた | ナノ


 


 17.



その日、俺はテニス部に顔を出さんと家に戻った。
白石から2度目の嫌味を言われた後、何も考えられへんなった頭を冷やす為に、そのまま資料室で煙草も吸わずボーッとしてて。ほんまに何も考えられへんかった筈やのに視界は無意識に外へ向いてた。
小さなナイロン袋を持った名前ちゃんと謙也がコートへ入って来て、それだけでコンビニに行ったんやと分かる。そして中を広げて財前と白石に何かを渡す。相変わらず仏頂面な財前と、相変わらず笑顔満開の白石に囲まれて彼女ははにかんでた。

なんや、心配なんか要らんかったんかもしれへん。俺が心配する迄もなく彼女は友達と、彼氏と、上手く付き合えるんや。俺が居ろうが居らまいが……。まあ、そやな、家族は家族、友達は友達、彼氏は彼氏、やんなぁ。


「……消え、へん」


納得、すれば浮かんでくるのは白石の声。
“名前の為?”
違う。ほんまは違う。今はまだ彼女の近くに居るのが無理やった。彼女が財前の事を話して、笑って、幸せを謳って、それでいて一片の曇りも無く笑いを返す自信が無かったんや。
彼女が笑えばそれだけで幸せや、その気持ちは嘘やないのに、

オサムちゃん

そう呼ぶ度に俺は何度も自覚させられる。名前ちゃんが愛しい、と。
せやから眼にみえる線を引いて、整理する時間とリアルな境界線での諦めを欲した。
離れる事が彼女の為にもなるって信じて。


「それでも、」


白石の言う通り100%彼女の為やなかった偽りの言葉やったとしてもそれを“本当”に変えてしまえば結果論として成り立つんやから。

大袈裟に意を決したみたく、仮面の笑顔を張り付けて、俺は見合い当日を迎えた。


(20120928)


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