16.
10分ほど遅れてテニスコートに来た部長は何となく、投げ遣りな顔をしてる気がした。
「部長」
『うん?財前、名前は?』
「コンビニに行きましたわ」
『ハハッ、ほんま自由やなぁ。せやけど1人で行かせたん?』
「謙也先輩が付き添いですわ」
『そら珍し………、オサムちゃんの事?』
体よくあの人を追い払った、そう言えば聞こえは悪いけど俺が聞きたい事をあの人に伝えるべきやないって思ったから。投げ遣りに見えた部長の顔からも、直ぐに察してくれた憂愁な部長の顔からもそれは間違いやなかって思わされる。
「部長が、俺に聞いて欲しかったんちゃいます?」
『半分、やな』
「それこそ珍しいすわ、曖昧な返事とか」
『せやなぁ…俺も名前が絡むと冷静な判断出来ひんのかもしれへんわ』
視線を外して笑う部長に、やっぱり良い話しやないんやって唾を呑んだ。昼休みにあの場所で話しをしてたのは、俺の耳に届くか届かへんか、それすらも神任せやったんかもしれへん。
必然と緊張する身体を隠してその続きの言葉を待つのは正直しんどかった。
『オサムちゃん、お見合いするんやって』
「、お見合い?」
『断って当たり前、昔みたいな堅苦しいもんやないって言うてたから紹介の顔合わせ程度なんやろうけどな』
「…………………」
『教頭からやから断われへんって言われたらそれまでやし別に何してもええねんけど…吉が出るか凶が出るか微妙やと思わへん?』
財前にこう言うのもどうかと思うけど、そう加えて申し訳無さそうにまた笑った。
部長は部長で違う視線からあの人を想ってる、それは昔から解ってたけどそれなら逆に俺の行動も部長が道を作ってくれてたら良かったのに。流石にそんな阿呆な事は口に出来ひんけど、部長が道を反らす様な事が無いだけに思いたくもなる。部長が言うたから、そうやって逃げ道を作りたいだけやけど。
『財前、この話し、名前に伝えるか伝えへんかは任せる』
「、」
『せやけど、これから一番名前の近くに居るのは財前やねんからな?』
その言葉の裏には頑張れ、頼む、宜しく、そんな意味合いが込められてた。ある意味オサムちゃんから言われた時と同じで、せやけど違う。部長やって特別やけど、改めてオサムちゃんからの特別域が別格やったと気付かされた。
『光ー!ただいま!』
『あ、白石も居るやん』
『おかえり。名前も謙也もコンビニで何買うて来たん?』
『今日は部活終わってからミーティングだからお摘まみをね!』
『そっか、名前は優しいな?』
『出来る女を目指してますから!』
『謙也も見習いなさい』
『いや、俺も一緒に行ったやん!』
『光はぜんざいあるからね!』
「……、当然すわ」
『お揃いでアタシのぜんざいもあるんだよ?』
「ぜんざいにお揃いとか、ほんま阿呆すわ」
『えへへ!』
何も知らんとコンビニ袋を提げてはにかむあの人を前に、俺の思考は右へ左へ揺れた。
見合い話しなんか言う必要無い。せやけどちゃんと言うて俺が隣に居れば本人にとって後々良いんやないかって。でも、どっちにしたって“間違い”に繋がる気がして掌に爪を立てた。
(20111218)
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