14.
ほんまにあの人はこのままでええんやろうか、俺はあの人に少しでもオサムちゃんに勝る何かを与えられるんやろうか。
うやむやな思考がぐるぐる回って結論も出ないまま午前の授業は終わった。
何もする気が起きへんで、昼休みになってもそのまま席から動かず窓の外を眺めてたら、購買で買ったらしいパンを下げたあの人がぬっと現れて思わず肩が跳ねた。
「っ、」
『光、ご飯食べた?』
「まだ、やけど」
『一緒に食べよ』
「…それはええけど、体育でも無いのに窓から来るん止めて欲しいすわ」
『何で?何が?』
「……もうええすわ」
心臓に悪いとも知らんと、あの人はヘラヘラ笑いっ放しでこっちが柄にも無く真剣に考えてた事すら阿呆らしくなる。本人はあれやこれや悩む事やってあるやろうけど、端から見ればこれくらい能天気に生きてみたいとさえ感じるのは普通やろう。ただ、この人やから阿呆の一言で済まされるだけで、他がこんな感じで居たら間違いなく関わらへん。つまりは、俺がそれだけ、この人の事でいっぱいっちゅう訳やった。
窓から覗く顔半分を見ては、良い意味での暖かい溜息が溢れる。自分勝手に好きという恋愛感情だけで居れたなら、楽で良かったのに。
『じゃあ光、部室で食べようよ、アタシ下駄箱まで行くから』
「はいはい了解」
『早く来てね?今すぐだよ?』
「分かってますわ」
別に俺が窓から外に出ても良かったけど『待ち合わせ〜待ち合わせ〜』なんやまた阿呆言いながら駆け足の背中を見れば引き止める気も失せて。
今会うて場所変えるだけなんやし待ち合わせって言うほどやないとは思うけど…せやけどどうせ下駄箱からのが部室は近いし、そう思考を巡らせながら教室を出た。その時、
『な、せやから言うたやろ白石!』
『まあこのタイミングで、となると可能性高いとは思ったけど、今時あるんかって考えると謙也が阿呆言いよるかとも思っててん』
『どんだけ信用無いねん俺』
『せやけどオサムちゃん、本気やろか』
『本気も何もコレ受け取ったんやで?』
『まあそやけど…』
廊下から見える隣の校舎の非常階段から聞き慣れた声が届いた。部長と謙也先輩、っちゅうのはいつもの事やけどオサムちゃんの話し…?
部長の左手には白い紙切れがあって、謙也先輩は興奮した顔でじっと眺めてる。流石に廊下からやとそれが何かは分からへんし、聞こえて来た会話も詳細まで読み取れへん。ただ、良い話しや無さそうな事だけは想像付いた。
教室やなく、わざわざあの人が居らへん場所で話しをしてり理由がそれやろう。
せやけどこの場所やと、こうして俺の耳に届く可能性も部長なら考える筈や。敢えてこの場所を選んでその可能性に賭けてたんか、それとも部室に行く事を分かってて選んだんか………。
『ひかる!』
「、」
『遅い遅い遅い!結局迎えに来ちゃったじゃんか…』
「ああ、すんません、ちょっとトンビがその辺が飛んでたんで見てたんですわ」
『え、トンビ?何それ?』
「全然気にする必要無いんで」
『えー?アタシも見たかったのに』
「……名前先輩」
『うん?』
「もし、俺とオサムちゃんが川で溺れてたらどないします?」
『え?』
「どっちかしか助けられへん」
『ひ、ひかる…?』
「なんでもないすわ」
阿呆な問い掛けして、元より阿呆な人に瞠若されてるとかほんまうかしとる。答えなんや出る筈無い問題やのに、聞くだけ無意味。
そんな無意味な質問は忘れて、放課後の部活ではストレートに部長に投げ掛けてみようと思った。
(20111208)
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