抱きしめて×抱きしめた | ナノ


 


 13.




彼女に救われたお陰で笑えた今日、どれだけ彼女を愛してたとしても本当の意味で兄貴の顔を出来るのは遠くないかもしれへん、そう思って軽い力で職員室のドアを開いた。
白石にメニュー表を預けて朝練を抜けて来ただけあって職員室も普段の賑わいは無く数人の教師達が頭を下げてくる。控え目な声でおはようございますとこっちも頭を下げたら、奥で壁に凭れてた教頭が容姿と不釣り合いに可愛らしく手招きした。


「おはようございます教頭」

『…渡邊先生』

「、何ですか?」

『渡邊先生は独身だったね』

「ああ、まあそうですけど…」

『良い話しがあるんだよ!』


これまさか俗に言う見合いというベタなやつか。遣るべき事はこなしてたとしても、外見中身共にきっちりとした手本に削ぐわへん自分には絶対的に無縁やと思ってたのに。
っちゅうかそもそも見合いっちゅうもんは自分の中で無かったからな。


『今時見合いなんて堅苦しい事は言わない、紹介という話しでどうだ?』

「いやー、僕なんかでええんですかねぇ…」

『渡邊先生もしゃんとしたらイケてる事は分かってるからな!』

「い、イケ…」

『何も結婚してくれと言ってる訳じゃない。こういうのは本人同士の問題であるし、そういう場を設けてくれと頼まれてしまったんだよ…断るつもりで良い、断ってくれて良いから受けてくれないか渡邊先生…!』

「ははは、教頭にも色々あるんですね…」


良い話しやとか言いながら最後は神頼みされてしもて。教頭の顔もあれば自分の顔もある。断るつもりで良いなら尚更拒否権は無い。
失笑しながらも二つ返事で返すと、スッキリした顔した教頭は軽快な足取りで職員室を出て行った。


「ほんまは、苦手やし面倒臭いねんけどなぁ…」


他の先生方に届かへん声で愚痴を溢して自分の机に座る。
しゃんとしたらイケてる、っちゅう発言には引いたけど裏を返せばしゃんとした格好で行けって事やし、ほんまのほんまに面倒臭い。
せっかくこれから頭の中を整理して行こうって思ってたのに他の事で煩わされたないねんけど…でも、もしかすると良い機会なんかもしれへん。彼女が俺から卒業するにも、俺が彼女から卒業するのにも利用出来るんちゃうかって。

彼女以上に想う相手が出来るなんや思わへんけど、結果はどうあれこういうのは少しくらい無理矢理な方が効きそうなもんやしなぁ。


「…面倒臭いは撤回して、有難く受けてみる、か」


何でもかんでもポケットに突っ込む癖を躊躇って、日時と詳細が書かれたメモを手帳に挟んだ。
廊下の窓で何かが張り付いてたのも気付かずに。




(20111204)


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