11.
『かと言ってアイツに話す訳にはいかないよなぁ…』
『まあ、そうなるな』
ケーキが綺麗に無くなったら本題に戻った。2人は僕を許してくれた、って言うより認めてくれた、けど。彼女は違う。
本来どうしてこんな事になったのか、その理由を伝える事は出来ない。仮に2人が話そうと言ったとしてもそんなの僕が言わせない。
それなら答えは決まってる。
「僕が起こした問題だから、僕が責任持つよ」
『責任持つって、どうすんだよ?』
「虫の居所が悪かったから喧嘩した、それだけ」
『はぁ!?そんなのでアイツが納得するかよ!』
『そうだよ流石に無理があるぞ羊』
「じゃあ…突っ込まれた時は、僕の容姿について言われたんだって言うから。みっともないけど嘘じゃないし…」
『それなら大丈夫、なのかな…』
『厳しいと思うぜ俺は』
「大丈夫。それで突き通すから心配しないでよ」
どうにも気が進まない様な2人だけどこれで良いんだ。もしもそれで今度こそ彼女に愛想を尽かされたとしても。
僕が傍に居て、彼女を泣かせるよりずっと良い。
それから暫くして錫也と哉太が僕の部屋を出て行くとタイミングを見計らったかの様に携帯が着信を告げた。まさか、名前…?
瞬時に期待が膨らんだけど、表示された名前は“自宅”の文字だった。思わず口から零れた自嘲めいた笑いに気を取り直して通話ボタンを押す。
「もしもし?」
《やぁ、アンリ。元気でやってるかい?》
「お陰様で毎日楽しいよ父さん」
楽しいだけじゃ済まないけど、僕は此処へ来れて良かったよ。その思いを込めて電話の向こうに居る父さんに答えた。
《アンリの好きな子も元気かい?》
「…今はちょっと落ち込んでるけど…普段は元気で可愛いよ」
《落ち込んでる?そろならアンリが支えてあげなきゃ駄目じゃないか》
「痛いとこ突くよね父さんは」
《どういう意味だい?》
「彼女には、僕じゃ駄目だって事」
《アンリ…フラれちゃったのか》
「ハッキリ言わないでくれる?付き合って欲しいとは言ってないんだから」
《ちゃんと口にしなきゃ伝わらない想いもあるんだよアンリ》
「分かってるよ。で、父さんの用件は何?」
悪気があるんだか無いんだか。ズバズバと切ってくれる父さんに溜息を吐いて主旨を問う。
父さんは過保護な方だけど、基本的にはメールで会話をするから。電話だと言う事は何かあるんだって分かってた。
《……………》
「なに、言わないの?」
《アンリ…ちゃんとフラれて来なさい》
「……………は?」
《伝えずに帰れば後悔する》
「ちょっと、何の話し?唐突過ぎて突っ込む気にもなれないんだけど」
《アメリカの研究所に入れる事になった。父さんと母さん、それにアンリも》
「え…?」
《アンリはまだ若いし日本に行ったばかりだから無理にとは言わないよ。ただチャンスだと言う事は伝えとこうと思って》
また連絡するから、考えておきなさい。それで電話は途切れた。
本当に唐突過ぎる帰国話しに、僕の心は大きく揺れた。
(20110424)
←