羊君長編/この声がなくなるまで | ナノ


 


 12.




小さい頃から望んでた夢。
家族3人で研究所に居たいという夢。
突然舞い込んだ吉報に軽くパニックに陥った僕だけど。今このタイミングでこの話し…きっと僕に与えられた運命なんだと思った。
夢は叶えられて、彼女も僕から解放される。それなら迷う必要なんか無いよね…?離れたくないなんて、それは僕の独り善がりな感情なんだから。彼女を想うなら、僕は僕に出来る遣り方で彼女を支えたい。

“1週間後に飛行機のチケットを取るよ”

電話を切って間もなくメールを送信すればオーケーという返事が直ぐに帰って来た。もう後戻りは出来ない。だから僕は迷わないよ。



「…という理由でフランスに帰国してアメリカに行きます」

『そうか。土萌は星月学園に来て漸く慣れて来た頃だろうし寂しくなるな』

「お世話に、なりました。残り僅かですが最後まで宜しくお願いします先生…」

『当たり前だ。お前も最後の日まで楽しく学校生活を送るように』

「有難うございます」



翌日、朝一番に職員室に行き担任へ事情を説明した。帰国に伴って退学手続きなど書類を貰う必要があったし。戻れないという現実を形にしたかったんだ。
あとは、いつ彼女や錫也や哉太に話しをするか…それが一番頭を抱える問題かもしれない。そんな事を考えてると、向こうから頭を下げたまま歩いて来る彼女の姿が見えた。



「…名前、おはよう」

『羊君…』



僕が声を掛けると顔を上げて眼を真ん丸くする。そしてまた直ぐに俯く彼女に、やっぱり罪悪感は消せやしなかった。



「名前、ごめんね」

『え、』

「昨日嫌な思いさせちゃったよね。ごめん」

『………………』

「本当なら追い掛けて謝るべきだったんだけど――」

『ち、違うよ!何でまた羊君が謝るの!』

「、」



僕と眼を合わせる事も嫌なんだと思ったのに、必死に弁解してくれる彼女は真っ直ぐ僕を捉えてる。



『あの、昨日ね、アタシびっくりして…』

「う、うん」

『羊君は哉太と違って、喧嘩もしないし乱暴じゃないし…そう思ってたから本当に驚いて…』

「ごめんね」

『だから!そうじゃなくて!』

「、うん…?」

『それで、ビックリしただけなら良かったんだけど羊君が怪我してるの見たら嫌だった…哉太もかすり傷作る事があるけど、羊君みたいにあんなダラダラ流血したり、しないし…』

「………………」

『本当はちゃんと手当てしてあげて、無事なのか確認したかったんだけど…羊君がこのまま死んじゃったらどうしようって怖くなったんだよね……大袈裟かもしれないけど』

「え……?」

『だから、逃げてごめん…きっと勘違いさせたって思うと会わせる顔も無くて……それに羊君は理由も無く喧嘩なんかしないって知ってるし!』



彼女の憂色な声に、昨日の錫也の声が重なった。
名前は怪我をして欲しくなかっただけだよ。
あの声が。
………なんだ。そうだったんだ。やっぱり錫也と哉太には適わないよね。僕とは年季が違うんだもん。なんか、笑えてくる。



『え、どうして笑うの!』

「さあ?どうしてかな?」

『あ、アタシ、これでも真剣に謝ってるつもりなんだけど…』

「あはは!ごめんね。だけど僕が笑ってるのは、名前が好きだからだよ」

『、本当に?嫌いになってない?』

「まさか。僕が君を嫌いになれる訳ないでしょ?」

『――――』

「前にも言ったけど、本当に愛してるから。名前が望むなら、何度だって言ってあげる」



途端ぎゅっと僕に抱き付く彼女が愛しくるしくて、愛しくて。
昨日は僕こそ大袈裟に考え過ぎただけだったみたいだけど、名前が名前で良かったって思ってる。
やっぱり離れたくはないけど、僕は、行くね。今まで君を想ってこられたんだから。これからの僕だって変わらない。今度は愛してるの気持ちを名前の幸せを祈る事に変えて遠くから見てるから。
だから、このまま黙って行く事を許してね。




(20110424)

※確か担任は攻略キャラだった気がするのですが、現在PSP春夏・春afterしかプレイしていないので似非丸出し申し訳ありません。
早く買い置きしている秋なども始めたいと思いますorz







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