君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 04.


不意な言葉も不意な笑顔も、振り回されるのは御免だって思ってたのに。
それが日常で、それが当たり前になった今って、不思議と嫌な気分じゃなくなった。


04.聴き飽きた捨て台詞 (月島)



『悪いが先生は急遽出張になったので、プリント5枚やっておくように』


やったーなんてざわめく教室、日直は授業が終わったら集めて先生の机に提出しなさい、その一声で閑散とした空気に一変する。パラパラ眼を通してみたって特別難しい問いは無さそうで、何を項垂れる必要があるんだか分からない。
シャーペンを片手にカリカリと音を立てて空白を埋めていると、不意にあのヒトの顔が過ぎった。

“ 眠っている彼女は疲れていたんだろうか。
声をかけても起きる様子はない。”

現代文の例題の彼女はあのヒトに似つかわしくなく、真面目で何事も一生懸命だという事らしいけど、声をかけても起きないとは、まさにさっきの朝練の景色とドンピシャで。
あれだけ皆が叫んでたのに起きる気配は微塵もなく、僕がデコピンをかます迄、口を開けて夢の中。本当に馬鹿丸出しのあの顔は笑いを通り越して同じ人種なのかさえ疑った。


「、っ!」


途端、脳天が揺れてポコン、と軽い音。
シャーペンの黒がぐにゃりと踊った文字を描いて、手のひらサイズの軟式ボールが転がる。


『つっきー』


窓からへらへらと歯を見せてくるのは言うまでもなくあのヒトで、ボールをぶつけて来たくせに悪びれる様子はある筈もない。


『ボール取って取って』

「……やっぱり馬鹿は体育してても馬鹿なんですね」

『どういう意味』

「ボールがこんな所にまで飛んで来るほどの実力なんでしょ」

『違う違う、ノーコンどころか命中だもん、褒めてほしいくらい!』


命中、つまり敢えて投げたという事で、敢えてボールを的にした僕へ投げたって事で。
転がったボールを拾ったら、思っ切り握り締めてドヤ顔のデコ目掛けて一直線。


『だっ!!なんて事すんの!』

「目には目を、って言葉知ってます?」

『そんなの知ってるもん!』

「僕がやられっぱなしな訳ないでしょ?10倍返しでプレゼント」

『だからって女の子に向かって暴力は反対!』

「女の子?暴力?猿の躾の間違いでしょ」

『さ、さささ、さるー!?』


本能のまま食べるだけ食べて、本能のまま寝たい時に寝て。
スタミナ溜めれば時間なんてお構い無しに自由気まま、チョロチョロ遊んで。
これを馬鹿猿と言わず何って言えばいいんだよ。……馬鹿犬でもいいけどね。


「大体今何の時間だと思ってるんだか。授業中なのに先生が居たらどうするつもりだったんですかねー」

『なーに、つっきーこそ馬鹿じゃん?』

「は、」

『つっきーがこの教室で、この席に居て、自習になって退屈そうなの見てたから来てあげたんじゃん?』

「見てたって、」

『アタシはね、つっきーだったら何処に居てもすぐ見つけちゃう自信あるんだから』

「ーーーーーーー」


いつもいつも、キャンキャン煩くてヘラヘラ笑って、嫌でも視界に入ってくるのはこっちなのに。このヒトの眼から見た景色は、僕が映る、という事なんだろうか。


『だって、金髪メガネノッポって目立つし』

「(いらっ)」

『ちょ、窓閉めないでよつっきー!!』

「馬鹿にはこれ以上付き合ってられないんでサヨナラ」

『ひどっ!カーテンまで閉めるなんて有り得ない……!』


つっきーのばかーっ
もう何度目かも分からない、毎回同じ捨て台詞。あんまりにもレパートリーが少なくて、デジャブの様に繰り返されるのに。
とっくに聴き飽きたその言葉を耳にすれば、今日はなんだか心臓を風が吹き抜けた気がした。

(馬鹿なくせに、生意気)



(20180130)



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