02.
どこかの愛犬のように尻尾降って愛想振り撒いて。
少し悪戯と意地悪をすれば吠えてくる。
それを見て笑う自分も、馬鹿なことは分かってたのに止められなかった。
02.馬鹿ばっかりの笑い (月島)
『もー無理しんどい死ぬ』
僕がジャージに着替えてすぐ、あのヒトはコートのど真ん中で転がった。
もしこれが一般的な普通の女子高生ならば、恥じらいもあっただろうし、何より制服のスカートを気にするんだろう。
ただ、このヒトは一般的じゃなけりゃ普通でもない。10本も20本もネジが飛んでいるヒトなわけで、スカートさえ捲し上げれば豪快に中の真っ黒なジャージを披露してくる。
いくら西谷さんに引っ張られてきたって言っても体力無さすぎでしょ。
「本当、馬鹿」
『ん゛?つっきー……何か言った?』
「別に。色気なんて鼻から期待してないけど、ジャージが無けりゃまだ見れたかもって思っただけですよ」
『え、どゆこと?それってアタシがジャージ脱げば色女ってこと?セクシー?可愛いに拍車がかかっちゃう系??』
そこまで言うなら脱いでもいいんだけれど〜?なんて、身体も起こさずジタバタ悶える始末。肯定なんて更々する訳もなく、否定するのさえも万年お花畑なこのヒトを前にすれば面倒になった。
『ちょっと、つっきー待ってよー!』
ゴロゴロゴロゴロ、制服が汚れるのもお構い無しに転がって追い掛けてくるけど、
『もっと褒めーーーー』
『花子、何してるんだ?』
『ーー、だ、だいち、さん、ごきげんよう……』
『朝練は始まってるのに随分、楽しそうにコートで寛いでるんだなぁ?』
『え、いや、そんな、』
澤村さんの足にぶつかって笑顔を向けられたなら、蛇に睨まれた蛙の如く口角が引きつった。
『早く着替えて校庭走ってこい!!』
『おに………!!』
基本、澤村さんは無茶は言わないし穏やかではあるけれど、このヒトには特別厳しいと思う日もある。まあ、確かに、他に甘やかされっぱなしな訳で、それだけじゃダメだという父親的心理なのかもしれないけど。
『つっきー……』
「何ですか。早く行って下さいよ校庭」
『ひどい!つっきーのせいでもあるんだから一緒に行ってくれるってのが筋だし優しさでしょ!?』
「僕は何もしてないんで変な仲間意識作るのやめてもらえません?ほらここ境界線、あるんで」
『なにそれ酷すぎる……!』
やっと起き上がって、僕のジャージを掴みながら口をへの字にするもんだから思わずこっちは優越が浮かぶ。このヒトと対照に、クッと口角を上げて耳に近づいてやれば、期待を込めたように肩が揺れた。
「僕の言った通り説教でしたね」
『べ、べっつにお説教じゃないもん』
「僕、未来読めちゃうんでー」
"僕が花子先輩の運命握ってるの、
忘れたらお仕置き待ってますから"
ジャージを掴んだ手を振り解いて背中を向けるなり、ばかーっなんて雄叫びが聞こえて僕は肩を揺らして笑った。
(馬鹿なんてお互い様でしょ)
(20180127)
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