23.
彼女を好きな事、彼女から離れない事、きっとそれは生涯続く永遠だと思ってた。
独り善がりな事だなんて思う訳も無く、ずっと信じてた。
23.突然の孤独 (西谷)
『今日も物凄ーくご機嫌そうだな』
物凄く、を物凄く強調されて振り向けば、悪戯っぽく笑うスガさんが居た。
弁当を片手に花子先輩への元へと浮かれた足を披露してれば傍から見たって脳内花畑な事はバレバレな訳で。歯を見せてニカッと白い笑顔をくれた。
「ウッス!花子先輩のお母さんに貰ったバナナミルクで元気ハツラツっす!!」
『そういや朝からテンション高かったもんな』
「足の先から頭のテッペンまでみなぎってるんすよ!」
『まあ確かにお母さんに挨拶だなんて進歩しまくりじゃーん?』
「あざす!!スガさんも機嫌良さそうに見えるんすけど何かあったんすか?」
『まあね、ほれ』
「なんすかーーー、あ!!」
得意気に差し出された用紙には進路希望調査票と書かれていて、そこにはA判定の文字。
スガさんが勉強出来るのは分かってたけど志望校かA判定だなんて俺からすれば夢みたいな話だ。
「すげー!!スガさん余裕じゃないすか!」
『今回たまたま良かっただけかもしれないけどさ、安心はするよな』
「大丈夫っすよ!俺なんか行ける大学があんのかってそこから問題すよ 」
本当、同じだけ部活もしてんのにいつ勉強してるのか。昼間念仏みたいな授業受けて全力でバレーすれば、家に帰ってから勉強なんて考えられねぇ。
『西谷も来年なんて直ぐだぞ、頑張らないと花子と同じ学校行けなくなるんじゃないか?』
「勉強は嫌すけど……花子先輩の為なら死ぬ気でやります!」
『ハハッ!やっぱり一緒の大学行く気なんだ』
「あったり前じゃないっすか!花子先輩が居ないなんて俺の人生終わったも同然すよ」
『同じとこ行けたとしても来年の1年間は離れ離れだろ』
「そうなんすよ……その間生きて行けるか不安なんすけど……でも!毎日逢いに行くつもりです!」
『流石西谷、超がつくほどの花子馬鹿』
「任せて下さい」
今が楽しくて幸せ過ぎて、来年彼女が卒業した後の事なんか生き地獄でしかないから想像したくないけど。でも、言われてみれば進路について聞いた事が無い。
ああ見えて人並みに出来るとは旭さんが言ってたし、どちらにしろ来年は勉強漬けの1年になるのは違いないんだろう。だけどもしも就職の道を選んだなら……場所によっては努力だけじゃ俺も同じ会社に入れない場合もある。
「うおおおお!!やべぇ……!」
『、何だよいきなり』
「あ、すんません、こっちの話しっス」
まあ、兎にも角にも彼女本人に聞いてみない事には始まらない。
もしかすると彼女の事だから『考えたくないから考えた事ない』くらい言うかもしれない。口をへの字に曲げて外方向くのが安易に想像出来るから噴き出しそうになった時だった。
『あ、西谷、あそこ花子花子』
「え?何処っすか!花子先輩!?」
『担任と居るじゃん、アイツも進路調査出してたのかな、そういや花子はどうする気だろ』
「俺も気になってたんで本人に聞いてみましょうよ!」
花子先輩
大きく息を吸って、手を振ろうと右手を上げると、
『お前がちゃんと進路について考えてたのは意外だったな』
『先生失礼!アタシ東京に戻るってずっと決めてた事ですから!』
『すまんすまん、まああれだ、目標は定まってるんだからこのまま頑張るんだぞ』
『はいはーい』
東京、そう聞こえて右手は宙を彷徨った。
『、西谷』
「……………………」
『……大丈夫か?』
「、や、なんか、東京って聞こえたけど空耳っすかね!」
『、』
『あっ!夕とスガー!何してるのー?』
愁眉を浮かべたスガさんが答えるより先に、いつも通りニコニコと笑う彼女が近付いて。
お昼を一緒に過ごそうと、当初の目的はこれで果たせるのに上手く笑えねぇ。
『、花子こそ、何してんだ?』
『アタシは先生に進路調査出してきたの!スガももう出した?』
『うん。俺は前から言ってた通り志望校は変わってないし』
『そっか!アタシも決まってるんだけど頑張らなきゃなぁって感じかなぁ……勉強したくないけど』
『はは、花子が机に向かってるなんて想像付かないもんな』
『相変わらず失礼なんだから!』
彼女に悟られまいと平静を装うスガさんは流石だ。それに引き換え俺はさっきからドクドク、動悸が止まなくて声が出ない。
でも、東京がただの聞き間違えならって、『何言ってるの此処に居るよ』って、確かめたくて。今度はギュッと右手に拳を作った。
「花子先輩、」
『うんー?』
「あの、さっき、東京とかって聞こえたんすけど、そんなの、」
『うん!アタシ東京の大学行くんだよ』
「ーーーーーー」
そんなの、嘘ですよね?
皆まで言う前に返ってきた答え。彼女は純粋無垢に笑って言った。
『夕は?もう決めた?』
「っ、」
『、西谷!』
『えっ、夕?!』
カシャーン、弁当箱が床に転がる音がしたら俺は逃げる為にただただ走った。
ついさっきまでの浮かれ足は消えてガムシャラに走るしか出来なくて。
「ハァッ、ハァッ…………」
“ 花子先輩が居ないなんて俺の人生終わったも同然すよ”
ずっと一緒だと思ってた。
卒業して環境が変わったとしても、俺と彼女は変わらないんじゃないかって信じてた。
あんな風に当たり前に東京行くだなんて言うと思ってなかった。
「……くそ、何でだよ…………」
急に、彼女との間に届かない壁があるって、孤独に襲われた。
(嘘だって、冗談だって言って下さいよ)
(20180430)
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