君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 22.


普段の日常なのに、少し色が付いただけで眼を細めてしまいそうになる。それくらい、キラキラしてた。



22.眩しさに、眼が眩む (月島)



『おっはよ、つっきー!』

「痛っ、」


朝練開始ギリギリの時間。何度体験したか分からないドンッという音と背中の痛みに、振り返れば相も変わらず悪びれなくヘラヘラ笑う顔があった。
一緒にネットを広げる山口も最初は驚いて顔を赤くしてたくせに、子泣きじじいの如く僕の背中に張り付いてるこのヒトを見ても、平然と『おはようございます』なんて挨拶をする。
やっぱりこのヒトは普通じゃなくて、それを普通と思わされるこっちも感覚が麻痺してきたんだろう。


「はぁ……邪魔なんですけど?」

『あらやだ反抗期?』

「寧ろ逆ですね、邪魔っていう素直な気持ちです」

『今日もつっきーのツンツンさが清々しいー!』

「そこで落ち込むくらいの方が女の子らしいんじゃないんですか?」

『ひっどい!今のままでも十分女の子ですけど!』

「はいはい、分かりましたなんて言いませんから退いて下さい」

『ええ?!普通は分かりましたって言うとこじゃないの?つっきー可笑しい!』


誰に向かって可笑しいって?
一番可笑しいヒトには言われたくないんですけど。そんな視線を向けたって無意味で、マイペースに背中をドンドン叩く始末。今日も馬鹿だとは思うし邪魔には変わりないけど、暫くはこのままでもいいかななんて思った矢先。


『花子。朝から今日も楽しそうにしてるなぁ?』

『!!』

「おはようございます澤村さん」

『だ、大地、おはよう……?』

『お前はおはようじゃないだろ!山口と月島がネット張ってるのにまた邪魔してるのか!!』


散々僕の背中で暴れてたくせに、お馴染みの父親役の登場で今度は僕を盾に小さくなる。珍しくこのまま、そんな事を思ってみた途端これだ。
まあ、思い通りに行かない相手に叱られてるのも見てる分には面白いから構わないけど。


『邪魔なんかしてないもん』

『邪魔だから退いて下さいって言われてただろ』

『、つっきーは天邪鬼だから邪魔って言っても邪魔じゃないって事なんです!』

『あー言えばこう言うのは止めなさい』


益々父親らしい顔になってきた澤村さんは腕を組んで厳しい眼を向ける。それに対し、言い訳ばっか並べるこのヒトは反抗期の娘そのものだ。


『あー言えばこー言うのは大地でしょ!大地こそコート作るの邪魔してるじゃん』

『…………うん?俺が邪魔してる?今そう言ったのか?』

『え、』

『花子。邪魔したお詫びに俺が責任持ってネット張ってやる。だからな、』

『だ、大地、』

『だからお前は今すぐ皆のドリンク作って来い!!』

『ええ……!!あれ物凄く重いのに!鬼!』

『なんだって?』

『う……もういい!大地の馬鹿あっかんべー!!』


いつもながら捨て台詞を吐いて走って出て行く姿は近所の悪ガキみたいで澤村さんも顔を歪めた。


「あ、」

『ん?』

『やーいやーい大地のおっさん顔おっさん性格ー!』

『なっ、』

「プッ」


出て行ったと思いきや、体育館入口でひょっこり顔を出して悪口を叫ぶ。正にこれを近所の悪ガキと呼ばずして何と呼ぶのか。あまりにも幼稚過ぎて、今時の女子高生とは掛け離れ過ぎて笑いが漏れた。


『何でアイツはいつもああなんだ!小学生か?!女子のする事じゃないだろ!』

「まあ、一般女子と言うよりは猿に近いと思いますよ」

『つっきー、言い過ぎじゃない?』

「山口も本音はそう思ってるでしょ」

『月島、ネットは俺が山口とやっておくからアイツがちゃんとやってるか見張ってくれないか』

「はあ、分かりました」


余程癇に障ったのか、くれぐれも厳しくな、なんて送り出される。僕が他の人達と違ってただ甘やかす様な性格じゃないのを分かっての事なのか。八つ当たりみたく、もっとピンとネット張れ!という罵声を尻目に体育館を出た。


「、」


まさかあのヒトが真面目にドリンク作ってる訳がないと思ったのに、飲用の水道に行けば皆のボトルを並べて水を入れる姿があった。


「明日大雨でも降るんですかね」

『あ、つっきー!手伝いに来てくれたの?』

「まさか。ちゃんとやってるか見て来いって言われただけです」

『言われなくともちゃんとやってます!大地のあんにゃろう!』


あんにゃろうって。今日日そんな言い方する人は居ないと思いますけど。
ブツブツ文句を言いながらも手はちゃっちゃか進めるあのヒトに、予想外な姿をじっくり見物しようと隣に座る。


『つっきー』

「なんですか」

『つっきーの事とってもとーっても優しいと思ってる。良い人過ぎて大好き』

「は?」

『だからコレ一緒に運ん「却下」』

『もー!!まだ言い終わってもないのに!』

「澤村さんに怒られますよ」


水にパウダーを溶かして蓋をすればわざとらしい褒め言葉に続く常套句。見え見えの言葉に騙される訳も無く視線を逸らしてやった。
またそっちを見れば、きっとこのヒトは頬を膨らませて拗ねてるんだろう、そう思ったのに。


『やっぱりつっきー優しいよね』

「、」

『幾ら大地に言われたからってずっと付いててくれるし、これ以上怒られないようにって心配してくれてるんでしょ?』

「相変わらず物凄くポジティブな捉え方で尊敬しますよ」

『そんな事言ったって分かってるんだから!アタシもそういう人だって分かってるからつっきー好きなんだもん』


何で、このヒトはこんなに素直に感情表現が出来るのか。
ニッコリ、そんな音まで聞こえて来そうな笑顔で好きだなんて。他意は無いと分かってても身体中がその一言に反応する。


「本当、厭なヒト」


こっちの気も知らないくせに。
感情が溢れそうなんて絶対言えない。

(心臓がうるさい)



(皆お疲れー!ドリンク作ったよー!)
(今日はちゃんと仕事したんだなーー……て、薄っ!俺のドリンク薄いぞ!!水と変わらないじゃないか!)
(見ざる聞かざる知らんざる)
(馬鹿!最後違う!!)

(やっぱり馬鹿だ)



(20180413)



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