君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 24.


程良い温度に酔っていれば、きっと変わらず居心地良い明日が毎日来るんだって信じてた。



24.冷えていた手と冷えた手 (月島)



『あれ、つっきーあれ見てあれ』

「は?」


あれあれと、こそあど言葉を並べながら山口が指差した方向には、あのヒトが居た。昼休みだと言うのに隣に居るのは西谷さんではなく菅原さんだった。


『花子先輩と菅原さんの組み合わせって、珍しいよね』

「そう?3年同士だし特別珍しい訳でもないでしょ」

『うん……でも菅原さん、ちょっと困った顔してる気がする』

「山口の気の所為じゃない」

『そ、そうかな、そうだよね』


そうは言ったけど、山口が感じた事は僕自身感じていて、菅原さんが曇った表情で笑ってたのは間違いじゃない。きっと何かあったんだと思う。


『え、つっきー行かないの?』

「何処に行くつもり」

『花子先輩のとこ、行かなくていいの?』

「話ししてる中、わざわざ邪魔しに行く必要無いでしょ」

『そりゃ、そうだけど……』

「行きたいなら1人で行けば?僕は教室戻って寝る」

『ちょ、待ってよつっきー!』


気にならない、と言えば嘘になるかもしれないけど。山口の言う通り、キャンキャン騒いでる西谷さんが居ない事で厭な胸騒ぎがして、自ら足を突っ込むのを拒んだ。
それなのに。


「……………………」

『……………………』


放課後、部室でジャージに着替える僕を、肘をついて仏頂面で見ている、否、睨み付けてくるのはあのヒトだった。
今更、バレー部男子の生着替えに躊躇する訳ないのは分かってるけど、ひたっすら厭な視線を向けられるのは僕の方が居心地悪い。


「何なんですか一体」

『何とは何よ』

「僕が聞いてるんですけど」

『そうなの?』

「噛み合ってないにも程があるでしょ、その不細工面、何とかして下さい」

『ひっど!!ブスだなんて酷すぎるんですけど!』

「はいはい、不細工としか言ってませんから」

『ブスと不細工は違うの?』


ニュアンスの問題かな、なんて言ったらまた爆発しそうだから黙っておくに限る。
制服をロッカーに放り込み、パタン、と音がしたらそれを合図にするみたく、あのヒトは口を開いた。


『なんか、変なの』

「え?」

『だから、なんか、変なんだって』

「花子先輩が変なのは今に始まった事じゃないと思いますけど」

『ちっがーう!アタシじゃない!』

「やっと自覚が出来たのかと思ったのに残念ですね」

『もー!つっきーの馬鹿』


夕の事だもん
僕の手を掴んで指を遊ばせながらも、眼を伏せて口を尖らせる。いつも暑いくらいに暖かいと感じてたあのヒトの体温は、僕の指先からはひんやりと伝ってきて、いつもみたく邪魔だって振り払う事は出来なかった。


「喧嘩した訳じゃないんでしょ」

『してない』

「西谷さんに何かしたんですか」

『アタシが?』

「西谷さんは花子先輩に馬鹿が付くくらい甘やかすのに嫌な事しないでしょ」

『うーん……確かに』

「だったら原因は自分じゃないの」


手遊びしながらいじける子供を前に、まるで怒らず諭す教師の気分で。いつもより少し手が冷たいからって、それだけで甘い顔をするなんて僕だって大概だ。西谷さんの事を言えたもんじゃない。
はあ、バレないように小さく息を吐けば、途端、指を止めたあのヒトは顔を上げる。


『もしかして、大学の話し、かな』

「大学?」

『うん。スガと進路相談の話ししてて、スガは志望校大丈夫だって』

「見るからに勉強出来そうですもんね」

『アタシも、このまま頑張らなきゃって言ってて』

「、進学希望なんですか?」

『そうだよ?何で?』

「てっきり、ニートになるもんだと思ってたから意外で」

『ちょっとつっきー!いくらアタシでもニートは…………羨ましいけど!』

「ほら、なりたいんでしょ」

『許されるならなってる!1日ゴロゴロして収入を得るなら絶対になる!』

「大丈夫です。そんな世の中絶対来ませんから」

『はあ、世知辛い世の中だよね……夕も、勉強嫌いだし進路の話ししたくなかったのかな』


まさかこのヒトが進学希望でちゃんと考えてた事にも驚いたけど。進路を考えたくないっていう現実逃避でこのヒトからも逃げるなんて、西谷さんに限ってあるんだろうか。寧ろ逃げるよりも追いかけ回す未来しか見えないのに。
だったら理由は別の所にあるんじゃないか、そう思って酸素を吸い込むと、


『アタシも受験は嫌だけど、東京に帰るって思うと頑張れるけどなぁ』


原因が分かった。


『夕だって、まだ間に合うんだから頑張って欲しい』

「……………………」

『でも夕に頑張れって言うのは逆効果って事?』

「……本気で言ってます?」

『え?』

「西谷さんの気持ち考えたら分かるんじゃないですか」

『、どういう事?』

「それくらい足りない頭でも考えて下さい」

『ええ?分かんないから聞いてるのに、』

「はいこの話しは終わり、部活行きますよ」

『ちょ、待ってよ、つっきー!?』


東京、その言葉だけで僕自身、何をどう返せばいいのか分からないのに。
行って欲しくないとか、寂しいだとか。そんな事を思う余裕も無く、今度は僕の手がひんやり冷えた気がした。

(つめたすぎて、いたい。)



(20180521)



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