君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 21.


春風の暖かさと似ている心地良さに眼を閉じても笑ってしまう。擽ったくてクシャクシャになる顔がまた幸福を告げる。



21.絶対的幸福論 (西谷)



「え、」

『ははふははふはひっへ(早く早く入って)』


試合が終わった昨日の帰り道。
月島から聞いた音駒と彼女の関係、彼女の口から言い放たれた普通という名の特別性。
勿論そんなの聞かされた時は言葉を見つけるのも出来ないくらい衝撃で頭が真っ白になった。そんなものを打ち砕くなんて有り得ないと思う反面、やっぱり負けたくねぇって対抗心は消えなくて。
少しでも彼女と一緒に居たい、その為にはいつもより10分早く起きて彼女の家に寄った。


「入って、って、いいんすか?」

『いいはらいいはら(いいからいいから)』


帰りだけじゃなく朝の始まりも一緒に居られたら、そう思ってメッセージを飛ばしたのに玄関を開けた彼女はスウェット姿で歯ブラシを喰わえたまま手招きをしてくる。
こんな朝っぱらからお邪魔するなんて迷惑極まりないのにどうすればいいのか。支度がまだなら外で待ってるし、彼女を待つ時間なら大した苦じゃないのに。そう思う間も無く彼女は俺の手を引っ張って中へと招いてくれた。


「えっと、お邪魔、します……」

『こっちこっち、座ってー!』

「、」


手を引かれそのまま通されたのはリビング、テーブルの向こうでお母さんらしき人が俺を呼ぶ。
急過ぎる展開に、試合以上の緊張が襲って心臓が口から飛び出そうだ。家に上がり込んだ挙げ句、お母さんに会って挨拶なんてそんなつもり無かったのにどうすんだよ!


「あの、いつもお世話になってます!西谷夕です!」

『うん知ってる、夕ちゃんだよね、早くそこ座って』


ゆう、ちゃん。
女っぽい呼び方とかそんなの関係ねぇ。
この気さくな感じ、柔らかい笑顔。間違い無く彼女の母親と分かる暖かさに俺は猛烈に感動している。


『本当、やっ君と同じくらい小さいねー!』

「あ、す、すみません」

『おっきくなる為だと思って飲んでみて』

「え、」

『蜂蜜入りバナナミルク』


夕ちゃんが来るって聞いて作ってみたの
やっ君の名前が引っかかったけどそれだって関係ねぇ。不意な訪問でも俺の為に用意してくれる優しさがもう歓悦でしかない。
マジで幸せ過ぎるっての。


「いただきますお母さん!!」

『一気?夕ちゃん格好良いー!』

「ぷはー、無茶苦茶美味いっす!」

『本当に?それくらいしかミキサー入れれるもの無くてごめんね』

「俺感動したっス!!お母さんのお陰でもう5センチくらい身長伸びた気がするっス!!」

『あら、夕ちゃん可愛い!』

「あざっす!」

『夕ー!!』


お母さんと、なんて癒しの時間。ふわふわと雲の様に浮いてる気分で感謝の気持ちを込めて頭を下げると、階段からバタバタ足音が聞こえた。
廊下からチラッと覗いて早く行くよ、そう言われたら、学校とは違う景色にまたじんと来る。
花子先輩、学校でも可愛いけど家だとまた一段と可愛いっす。


『ママと盛り上がってる場合じゃないから!遅刻したらまた大地に怒られる』

「花子先輩、待って下さいよ!」

『へえー、“花子先輩”だって。全ー然大人になれないのに先輩になれるのが不思議だよねぇ』

『ママ煩いから!』

「そんな事無いっスよ、いつも俺は花子先輩の優しいとこに元気貰ってます!」

『夕ちゃん可愛いし良い子ねぇ』

「花子先輩の方が良い人っスから!きっとお母さん譲りの人柄と、お母さんが育ててくれたお陰っスね!ありがとうございます!」

『夕ちゃん……』

『見たかアタシの偉大さを!』

『アンタは全く偉大じゃないから早く行って来なさいよ、遅刻するんでしょ?』

『あ、そうだった!夕行こ!』

「うっす!ご馳走様でした!行ってきます!」

『行ってらっしゃい』


まさかこんな風に両親以外から送り出して貰える日が来ようとは。自分の親より丁寧に、気持ち良く家を出れた気がする。
当然彼女の家族だからっていう贔屓目はあれど、あの人が彼女のお母さんで良かったって心から思える。
そして何よりお母さんが俺を知っていた事、俺を受け入れてくれた事が何より嬉しかった。


『夕、ご機嫌?』

「当然っすよ!」

『バナナミルク美味しかったの?』

「美味かったっス!何処の店も勝てねぇっすねあれは」

『あはは、そんな事言ってたらママ毎日作って飲ませるよ?』

「大歓迎っス!!!でも、」

『うん?』

「花子先輩が俺の事、話してくれてたんだなって思って」


まあ、背が小さいとも言ってたみたいだけど。
それでも0より全然良い。


『そりゃそうでしょ』

「、」

『だっていつも夕と一緒に居るんだもん、夕の話しになるに決まってる』

「ーーーーーー」


当たり前に言ってのける彼女は当たり前に笑って。
彼女の普通は特別だって理解してる今、普通の特別に俺も居るんだって言われたのと同じだった。


『夕はアタシが優しいって言ってくれたけど、夕がアタシに優しいって事、アタシもママも知ってるから!』

「花子先輩……、もうマジで今日も最高っス!!」


親子揃って嬉々をくれる、そんな爽やかな朝にじっとしてられなくて俺は豪快に飛び跳ねて大きくガッツポーズ。
それを見て真似してピョンピョン跳ねる彼女が、子供染みてて愛しくなった。

(花子先輩、明日も迎えに行きますから!)



(20180326)



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