君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 20.


苛立っても苛立ってもそこに居て、また明日もそこに居たいと思える程、心は盗られてしまった。



20.当たり前の場所 (月島)



『……………………』

「……………………」

『……月島、その顔怖いぞ』


2日間の練習試合もやっと終えた帰り道。
僕の隣で歩くあのヒトを飛び超して、あのヒトとさほど変わらない背丈を見れば失笑した顔があった。


「怖いって何ですか西谷さん」

『物凄く悪意のある視線だったと思うけど』

『アハハッ!つっきーは大体こんな顔してるもんね』

「それもどういう意味ですか」


そりゃあ悪意があるどころの騒ぎじゃない。
人が苛ついてる時に、何も知らず敵に塩を送って馬鹿なんじゃないかと思ったし、当人は格好良く負けない宣告したつもりかもしれないけど僕から見ればただの喜劇の茶番だ。
もし昨晩の話しを聞いていれば無駄に爽やか風吹かす事も出来なかっただろうし、単純に知らなかったって言われるのも腹立たしい。
あのトサカ頭も僕にしか言わずほくそ笑んだけど、もしも僕が上手く伝えると思っての事だったとすれば尚のこと胸くそ悪い。


『そりゃあな、全敗してムシャクシャするけど今の俺達には必要な事だったと思うぞ』

『おおっ!夕、先輩っぽい!格好良い!』

『あざっす!』

「はぁ……まあそれも少なからず気分を害しましたけど」

『ん?じゃあ他に理由あるのか?』

「昨日、音駒の人達、花子先輩の家に来て何してたんですか?」


平和主義の能天気な頭は察するという事が出来ないみたいなので事実という爆弾を投下してやった。
どうやら言葉の意味が分からないらしく頭上にハテナを飛ばしておどけた顔。間抜け過ぎて笑えない。


『つっきー何で知ってるの?』

「トサカ頭に聞いたんですけど?」

『トサカ頭?クロの事?』

「そう」


そっかそっか、笑って頷くあのヒトを前に間抜け面は漸く事の重大さに気が付いたみたいで、眉間にシワを作った。


『何してたって言っても特別な事は何もしてないけど……普通にご飯食べてアップルパイ食べて、お風呂入ってー、寝た…………ってくらい』

『ええ゛!?』

「………………寝た?」


聞き捨てならない単語が聞こえたのは気のせいなんだろうか。
食事くらいは一緒だったと想像してたけどまさか泊まったなんて言うつもり?猫達は近くのホテルに宿泊したんじゃないの。


『うん、皆で一緒に寝た』

『えええ゛!!?』


このヒトはやっぱり正真正銘の馬鹿だ。
思春期真っ只中の男子と一緒に寝るなんて普通の女子高生がする事じゃない。
今回ばかりは顔面蒼白する西谷さんにも頷ける、僕だって引きつってるのが自分でも分かる。


『そんな驚く事でもないでしょー?』

『いや、驚きますよ!っつーか駄目ですよ!!何でそんな事したんすか……』

「馬鹿だから」

『もう、つっきーは何でも馬鹿だからで済まさない!』

「じゃあ何なんですか」

『クロと研磨は赤ちゃんの頃からずっと一緒に寝てたんだよ?同じ家で育ったのも変わらないじゃん?』


このヒトの普通は一般的な普通とは大分違う様だ。
そりゃあ、兄弟と変わらないと言ってしまえば大した話ではないのかもしれないけど、お互いそれだけの感情かって聞かれたならそうじゃないでしょ、必ずプラスアルファが付く筈だ。特に猫達は。


『赤ちゃんの頃から……』

『ね、夕も普通だと思うでしょ?そりゃ今回はやっ君も居たけど1人増えたくらい別に』

「余計マズいの分からないんですか」

『何が??寧ろ面白かったよ、ベッドで寝てるアタシの下でね、2人分しか布団も敷けないスペースで3人が重なり合って寝てるの』

『まじっすか…………』

『うんうん、腕とか足とか飛んで来て歪み合ってた!ウケるよね!』

『花子先輩すみません、ウケないっす……』

『え?そう?面白くない?』

『つらいっす……娘を持つ父親の気持ちが少し分かった気がするっす……』

『アハハッ、夕もウケるよね』

「はぁ…………何言っても無駄ですね」

『うん?どういう意味よつっきー』

「馬鹿に付ける薬は無いって言うでしょ」

『ひっどい!馬鹿って言う方が馬鹿なんですー!カバって言う方がカバなんですー!』

「ほら幼児並み知能」


妙に余裕のあるトサカ頭の笑み、その理由が分かった今、あのヒトと一緒に居る限り、あの上から目線の忌々しい笑顔は一生付き纏うだと悟った。十数年も一緒に居たのなら確かにそれは強みだし、切れない糸で結ばれてるんだと思うだろう。
だけど、その十数年もの間、変わらない関係を続けて来たんなら……。未来だってこのまま変わらない関係の可能性の方が高いし、こちらに分があると思う。


「花子先輩」

『何ですかトゲトゲ男の月島君』


この際、幼稚過ぎる下手なネーミングセンスは眼を瞑って。


「もしも、烏野バレー部が無くなるって事になったらどうします?」

『え、』

『な、何言ってんだよ月島』

「有り得ない、って思ってたって100パーセントの保証なんて無いでしょ?」

『やだやめて』

『花子先輩、』

『そんなの嫌だから!冗談でもそんな事言わないで』

「ーーーーー 」


ほら。過去の事が当たり前だとしても今だってこのヒトにとっては此処に居る事も当たり前だ。
キッと睨み付けるその眼は真っ直ぐで強くて、本気の嫌が見えてくるから笑わずには居られなくて。


「……、そうですね。僕も思いますよ、無くなるのは嫌だって」

『ーーっ、つっきーが笑った!!可愛い事言いながら笑ってる!!』

「な、」

『月島ー!お前も良いとこあるんじゃねぇか!』

「ちょ、」

『ねぇ夕!?今のキュンと来るよね?』

『そうっスね!好感度上がるっスよ!』

『分かるー!!つっきーファンが此処に居たらきっと鼻血出してる!写メりたかったー』

「、いい加減黙って下さい!もう帰りますから!お疲れ様です」


ちょっと素直に賛同すればこれだ。
話の腰を折らず終わらせようと思ったのに単細胞が2匹も居たんじゃ纏まるものも纏まらない。


『えー!ちょっと待ってよつっきー!』

「着いて来ないで下さい」


早歩きで引き止める声を振り払えば、ズキズキと頭が痛くなった。
話題の中心になるなんてまっぴら御免です。

(猫と言い、あのヒトと言い、頭痛ばっかじゃないか)



(20180323)



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