19.
過ぎた過去には戻れなくても未来は負けたくなくて声に出して誓う、気持ちは本物だって。
19.負けられない重み (西谷)
「ふぅ……」
負けた。1度くらい勝てるんじゃないかって過信してた。昨日今日と何度も試合をしたのに、最後の最後でボールを拾えなかったのは烏野だ。後少しの距離が届かなかったのは俺だ。
あれだけエースの為にボールを上げると誓ったのに、結局実力はまだ不足していて、練習試合で良かったなんて気休めは言えやしない。
それに対して、音駒は全員が落ち着いて対処してくる。初めは拾えなかった翔陽のアタックだって喰らい付いて来るし、旭さんのアタックなんて戻せなくとも最初から受けてた。チームの欲目が多少あったとしてもあのボールを取れる相手のリベロ。全員の守備力が高い中でのリベロ。やっぱすげぇなって思わない訳が無かった。
「レシーブ凄かったっす!!」
『、』
何かスガさんと話しをしてたらしい中に割って入ると夜久さんは一瞬肩を跳ねさせた。
彼女が言ってた事、今なら頷ける。
『クロ達はずっと一緒にやってきたから』
だからこそのチームプレイ、その上でのズバ抜けたレシーブ力。
「あのチームの中でリベロの地位にいる実力凄ぇと思いました!」
『ーーーーー』
『西谷、そんな一方的に言うな』
「、あ、すみません、でも俺も負けないっすから」
『…………やばいっすね』
彼女がずっと見て来たこのチーム、その中のリベロの座を守る、それが俺にとってどれだけ歓悦で羨望すべき事か。自分自身が今そうだから素直に伝えたかった。
『……自分だって相当上手いリベロなのに』
だから、そう言って貰えた事がどれだけ嬉々とした言葉だったか。
それなのに。
「、ありがとうございーー」
『慢心するどころか上だけを見る、花子にもそうなんだろうな、怖いっすね。だけど簡単じゃないから』
「、え?」
『簡単にはいそうですかって頷く程、俺はお人好しじゃねぇからな』
「ーーーーー」
じゃ、お疲れありがとな
手を上げて彼女の方へ走ってく背中に反論する術は見付からなくて。そこに居たのが当たり前の様に、彼女は猫に囲まれて笑ってる。
『西谷』
「は、はい」
『何言い負かされてんだよ』
「っ!」
『って言いたいけど止めとく』
「す、スガさん」
『気にすんなとも言わないけど、今アイツが居るの烏野だからな』
スガさんの鉄槌が来る、そう思って構えたのにいつもの穏やかな眼を向けてくれる。
向こうは過去、お前はこれからだろ。ポンと背中を押された。旭さんと言い、スガさんと言い、何で此処の人達はお節介で優しい人ばっかなんだよ。
そんな風にされたら黙ってるなんて格好悪いとこ見せらんねぇじゃないすか。
「夜久さん!!」
『、』
「俺だってお人好しじゃねぇっス!」
お節介な人達が居る烏野で、俺と一緒に居て欲しいから。
「簡単じゃなくても、これが普通だって、日常だって変えて見せるんで。覚悟して下さい!」
昔、音駒に居たからあっちが正しい場所なんて、俺だってはいそうですかって頷ける訳ねぇし。向こう程、年季なんか入って無くても、彼女は此処で毎日笑ってるんだ。
だったらそれが今の普通だろ。
『………………本当、怖いっすね』
意図が見えずキョトンと眼を丸くする彼女や周りを置いて、小さく笑ったのが分かった。
彼女が烏野へ来て1年と数ヶ月。それでも変わらない想いの深さに、格好良いとさえ感じるけど、俺は逆だ。烏野に来てくれたのは彼女に会う為だったんだって思うから。
こんな所で引く訳には行かない。
(想いだって、負ける訳がねぇ。俺がどれだけ好きだって思ってきたか)
(20180319)
←