君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 18.


目まぐるしく移り変わる感情に一息つく暇も無くて、ただ感じるままにあのヒトを想う。



18.右往左往する情感 (月島)



おっはよー
能天気な声が聞こえたと同時に背中にドンと鈍い衝撃が走る。


「痛、」

『良かった、元気そう。良く寝れたんだねつっきー!』

「……………………」

『なに、不服そうな顔して』


朝っぱらひとり元気でそれはいいとしても、こっちは朝なんて気怠いのにお構いなくタックルしてくるって馬鹿なの?そんな思いも察する様子すら無い。
そりゃ、あれから帰って良く寝れた。あれだけ身体を動かせば僕の意志は関係無く身体が疲労回復に務めるんだから当然だ。


「まあ、しっかり寝た事に否定はしませんけど」

『もし疲れたって休んでたら叩き起しに行ってたんだから!』


人の迷惑考えて下さい。そう言うより、
それも有りですね。こう言いたくなったのはこのヒトを好きだという感情の所為なんだろうか。
昨日山口が余計な事をしたとは言っても、このヒトからのメッセージが嬉しかった事は事実で、今日も気にかけてくれてるのが喜悦だった。


『今日のつっきー、可愛い』

「は、」

『いい感じ!』

「何それ、」

『じゃあ今日も試合頑張ろ!』


いい感じとか可愛いとか。何の事だか分からないし、可愛いと言われて悦ぶ男子高生が居るのか。不可解でしか無いと思いながらも、ロッカーに荷物を放り投げた。


『月島、急いで。もうあちらさん来てるみたいだから』

「あ、はい」

『…………………………』

「、何ですか菅原さん」


手招きして僕を呼んだ後、そのままじーっと視線はこっち。割りと大きめな眼をまじまじと向けられるのは正直良い気はしない。


『月島良い事あった?』

「え?」

『今日、寄ってないから』


ココ。そう言いながらトントンと眉間を指差して。にっこり、黒くない真っ白な笑顔を見せたかと思えば『音駒リベンジ期待してるべ』真っ黒な笑いに一変する。
僕が言うのも何だけど、やっぱり菅原さんは良い性格してると思う。化け狸みたいな様変わりに敬意を払いたいくらいだ。
だけど眉間のシワが無いって言うのは……


「ーーーーー」


鏡に映る自分、そこには何か吹っ切れたように清々しさを纏う顔があった。
朝一番、見慣れた顔は怠さに見舞われた表情。そんな濁った顔付きは皆無で、僕自身驚いた。
あのヒトの言葉の偉大さと影響力に脱帽して笑いが零れた。


『一同整列!』

『『ありがとうございますした!』』


そして今日も行った試合は全て完敗。
1秒1秒必死に喰らい付いても終わってみれば一瞬で、相手の個人の力量差を今日も実感するだけだった。
幾ら昨日自主錬をしたって言っても1日そこらで実力が上がる訳は無いし、僕が思うのは腹が立つ、そこは変わらない。それなのに日向は向こうのミドルセッターと褒め合ってじゃれ合うばかり。正直会話もそのやり取りも理解出来ない。


「何あれ……」

『高校生の会話じゃあねえよなぁ』

「、」


怪訝に眺めてると隣には例のトサカ頭。口角を上げるその顔はやっぱりいけ好かない。
会話を求めた覚えは無いのにそのまま口を開く。


『君はもう少し高校生らしくなってもいいと思うけど?』

「……そういうの苦手なんで」

『花子の相手は出来るのに?』

「っ、」

『アイツと目線合わせないとアイツとは並べないからな』

「どういう意味ですか」

『自分のプライドばっか守ってたら取り返し付かなくなるぞって事』

「、は?」


何言ってるんですか。怪訝の矛先がこっちに向いたのに『俺みたいにな』なんて。
小馬鹿にした笑いが幽愁の笑みになったら反論なんか出来なかった。あのヒトと何があったかなんて知らないけど、彼なりに思う事があるのかもしれない。
と、少しは同情心が芽生えたけど、


『花子』

『クロお疲れ様!もう帰っちゃうんだね……』

『んな顔すんなって。また来るから、おばさんに宜しくな。昨日のさんま最高だったって』

『うん!クロの為にまたさんま沢山買っとく!』


頼むわ、そう言って頭を撫でる時、トサカ頭は僕を見てまたもやほくそ笑む。
また来るって何。昨日のさんまってどういう事。
意味深なやり取りと言えど何となく想像が付く出来事を浮かべては、さっきの同情心なんか消え失せてモップを振り回したくなった。

どうやってもトサカ頭は好きになれない。
あの忌々しい笑いをこの世から消し去りたいと本気で思いながら、昨日一緒に帰っていた西谷さんを睨み付けた。

(むかついて仕方ないんですけど責任取ってもらえます?)



(20180315)



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