君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 12.


何となく生きて、何となく勉強して、何となく部活して、何となくそれなりの学校へ行ければそれでいいかと思っていた。
だけどそれだけじゃ足りないと思ってしまうのは、あのヒトとあの人からの感染なんだろうか。



12.鈍らない笑顔 (月島)



『明日に備えて今日はしっかり休むように!お前等ちゃんと食ってちゃんと寝ろよ!』

『『ウッス!!ありがとうございました!』』



烏色のジャージが散らばる中で、
厭に浮かれてるな
コーチの言葉に緩む顔を隠せないあのヒトを見ると何でだか焦燥感に煽られて、あのヒトを手を自ら掴んで我に返った。


『、つっきー?』

「あ、」

『どしたの』

「……帰り、一緒してもいいですか」


どうしてそんな事を言ったのか自分が理解出来ない。一緒に帰ろうだなんて、これじゃ告白してるのと大差ない。
眼を見張ったあのヒトを前に、視線を逃がしたくなったけど、


『うんっ!一緒に帰る!』

「ーーーーーーー」


途端、喜悦と恍惚を織り交ぜたように笑うから。


「……、幼稚園児の送迎バスと同じですけどね」

『どういう事それ』

「そのまんまですよ」

『送り迎えが無いと帰れないとでも?』

「察してもらえて良かったです。サイズはでかいのに、泣き喚きながら帰る迷子なんて近所迷惑も程がありますし」

『もう泣いてないし!』


この顔を見たかったんだって思わされる。
まるで周りの世界は遮断されて今この空間は僕とこのヒトだけしか居ない気さえして。


『花子先輩!!』

『うーん?』

『一緒に帰りましよう!肉まん食べながら!』


それなのに、僕に向けられた顔をそのまま声へのする方へ向けるから。


「僕にも買ってくれます?肉まん」


自身の存在をアピールさせたくなった。
瞬時に西谷さんは眉を寄せて露骨に嫌な顔をしたけど流石はひとつ違いと言えど先輩。あのヒトが一緒にと言えば笑顔に戻って頷いてくれる。それを見れば尚更引く気にはならない。


「花子先輩が居たら肉まんまで付いてくるなんて得ですねー」

『肉まんがついでなの!夕が付いてくるの間違い』

「僕からしてみれば儲け話しですよ」

『もうつっきーてば相変わらず素直じゃないなぁ』

『月島、お前、』

「西谷さん。肉まんだけ、宜しくお願いします」

『っ!』


割って入るつもりは無い。だけどこんなに顔を歪ませて笑う西谷さんを見ると気持ちが良いことこの上ない。優越感がフツフツと湧き上がって愉快でしかなかった。
僕が先にこのヒトを誘ったって事、このヒトが先に僕を選んだって事、痛いくらいに分かって貰わなきゃ楽しくないでしょ?


『月島』

「あ、どうも」


そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、言葉通り西谷さんは肉まんを僕に渡してくる。
ドヤ顔めいたその顔に、何か言ってやりたくはなったけど、先輩としての顔も半分は見えたもんだから僕も大人しく肉まんで口を塞いだ。


『くーっ!部活帰りにホカホカ肉まん!堪らんねぇ、美味しいねぇ!!』

「親父かっての」

『何言ってんだよ月島!花子先輩の言う通り、体動かした後に食う肉まんは絶品だっつの!なんせ俺が奢った肉まんだし!』

「誰が買っても肉まんは肉まんですよ」

『あはは、流石つっきー!』

『本っ当に減らず口だよな』

「ありがとうございます」

『褒めてねぇよ』


穏やか過ぎる暗闇で、あのヒトと西谷さんの笑い声に囲まれて。
いつも勝手に付いてくる山口はともかく、学校から解放された後にまで自ら他人とコミュニケーションを取りに行こうとは思った事が無い。それだけに、こういう時間は新鮮過ぎてどんな顔をすればいいか分からなかった。


『送ってくれてありがとう、夕もつっきーも! 』

『ウス!危ないんだから毎日送りますよ!』

『ふふふっありがと』

「練習試合の為に朝から調整ですよ、遅刻しないで下さいね。遠足前に寝れない子供じゃないんだから」

『どんな例えよ!でもまあ、楽しみなのは本当 かも』

「、」

『じゃあまた明日!おやすみ』

『ウッス!』


パタパタ音を立てて家の中へ消えるあのヒトを見送りながら、さっき言った“楽しみ”の単語が脳内を駆け巡る。コーチが言いたくなる程の浮かれ様。それは間違ってないと思う。


『なぁ月島』

「はい」

『花子先輩、何がそんなに楽しみなんだろうな』

「分かる訳ないでしょ、あのヒトが考える事なんて突拍子もないんですから」

『ハハッ、お前の発言だってそうだろ!』

「僕は至って普通です」


西谷さんとこんな風に2人で話すのは初めてかもしれない。日向とウマが合うイコール、僕とは違う人種だと決め付けて必要外の接触を無意識に避けていたんだろうか。
こうして話してみれば、言葉も当然通じるし、意外と普通の回答が返ってくる。何故だか、悪い気もしなかった。


『俺な、何か嫌な予感するんだよ』

「、嫌な予感?」

『ああ……明日、ぜっっっってぇ何かあるって』

「何か、とは?」

『それが分かれば苦労しねぇだろ!!』

「よく分かりませんけど、あのヒトが浮かれてるのが気になるって事でしょ?」

『ま、まあ、そうだな』

「……確かに、僕も不自然には思いましたから」

『、だよな!月島も分かってんじゃねぇか!』

「ちょ、」


僕よりも大分小さい身体のくせに、跳ねながら頭を撫でられて。やっぱり日向と同類かも、そう思ったのも束の間、


『月島、明日勝つぞ』

「、」

『明日は俺達が争ったって仕方ねぇんだからさ!一時休戦』

「ーーーーー」


余計な不安要素作ってたらブッ倒すぞ
言いながら微笑む姿に眼を離せなかった。
あのヒトに向ける様な柔らかさは無いけど歯を見せて拳を胸に当ててくる。


「西谷さんて」

『ん?』

「変な人ですね」

『はあ!?』


拳が当たった場所が何となく擽ったくて。
裏の無い真っ直ぐな笑顔が、少しだけ兄貴に似てる様な気がした。改めて、この人を嫌いじゃないと思えたのはその所為かもしれない。

(容姿は似ても似つかないけど)



(20180215)



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