君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 11.


前を向く
そう吹っ切れば清々しいほど心が軽くなった。
全力で追い掛けて、いつかその手を捕まえようと彼女の隣へ向かう。



11.戦いの火蓋が落とされる (西谷)



「ローリング…サンダー!」


ただの回転レシーブじゃねぇか、そう笑い飛ばす龍の横で彼女は手を叩いて喜んだ。


『すごいすごい、アタシもやりたい』

『俺も!俺も出来るようになりたい!ローリングサンダー!』

『翔陽もやりたいよね!一緒に頑張ろ!』

『ウッス!』

「そうかそうかー、大丈夫だ纏めて俺が教えてやる!!」


今時男子高生の癖に摺れてない素直な翔陽、それに並んで同じテンションで跳ねる花子先輩。
いやもうマジで癒しの他に何でもない。バカ笑い続ける龍に爪垢飲ませてやりたいが、それすら跳ね除ける程のときめきがそこにはある。
だけど鼻の下伸ばして得意気にボールを持つと、その手からボールの重さが消えた。


『はい、もうミーティングだから。花子も遊ぶな』

『大地……遊ぶだなんて酷いんじゃないの?アタシは皆と一緒に頑張ろうとしてるだけじゃんか!』

『お前の頑張るところはバレーじゃない』

『カッチーン』

「まあまあまあ、花子先輩はまた今度付きっきりで教えますから!」

『えー?本当に?』

「はい!とりあえず並びましょ」


納得いかず頬を膨らます彼女がまた一段と可愛く見えるのは俺だけなんだろうか。
見ても見ても見飽きない、無意識に癒しを噛み締める俺を見て、後ろでは背中を押してくれた旭さんが肩を揺らして笑っていた。
笑うとこじゃなくて共感するとこなんですけど?まあいい、譲らないと決めたからにはライバルは少ない方が良いに決まってる。ただし、可愛い事だけは認めてほしい。


『コーチ、武田先生、お願いします』

『おー全員居るな?』

『『ウッス!』』

『明日からは音駒高校との練習試合だ、試合のメンバーは前に話した通り。自分達の出来る事を精一杯ぶつけてこい』

『『はい!』』

『でも、明日から、て言うのは……1日だけじゃないんですか?』


確かに、明日と言わず明日からと言うのは違和感があった。前に聞いた話しでは1日だけの筈だった。


『それは僕から話しましょう。猫又監督にお願いしたところ1日だけの話しではあったんですが、せっかく遠路はるばる来て下さるのに勿体無いと言う事で、宿泊施設が格安で抑えられたら連日でと言って下さったんです』


練習試合は絶好のチャンス、強くなる為には不可欠で、向上心しか無い奴等の集まりともなれば必然的に歓喜を浮かべる。
そんな中で、1人特別満面の笑みを浮かべるのは彼女だった。


『なんだぁ花子、厭に浮かれてるな』

『そりゃコーチ!試合だもん!』

『お前が出る訳じゃねぇのにな』

『まあまあ、皆の頑張りを観れる時ですからね』


フーンと特に気にした様子は無い烏養コーチ、反して苦笑いを浮かべる武ちゃん。その対照的な表情の意図は分からなかったけど、彼女のご満悦な姿に、少しだけ胸騒ぎがした。


「花子先輩!」

『うーん?』

「一緒に帰りましょう!肉まん食べながら!」

『じゃあ僕にも買ってくれます?肉まん』


え?期待した声とは程遠い、低い声が返ってきて。上から影を作る顔は左の口角だけ上げて俺を映す。
宣戦布告の様にも取れるその顔に、つられてイラッと俺の左口角も上がった。


『つっきーが送ってくれるって言うから!皆で肉まん食べよー?』

「え、あ、そうっスね!」

『花子先輩が居たら肉まんまで付いてくるなんて得ですねー』

『肉まんがついでなの!夕が付いてくるの間違い』

『僕からしてみれば儲け話しですよ』

『もうつっきーてば相変わらず素直じゃないなぁ』


俺はあくまで肉まんの為、財布と変わらない様な月島の物言いに俺の顔はどんどん引き攣るのが分かる。
月島は元々癖が強くて良い性格してるのは知ってたつもりだ。だけどこれは……マジで、ムカつくレベルじゃね?


「月島、お前、」

『西谷さん。肉まんだけ、宜しくお願いします』

「っ!」


これは宣戦布告の様じゃなく宣戦布告のそのもの。
まさかあの月島から受け取るとは思いもしなかった。

くっそ、急に突っかかってくるなんてどうしたんだよ!花子先輩の可愛さを理解して欲しいとは言ったけど、やっぱり渡せる訳ねぇじゃん!
俺と彼女の間を割って入ってくる月島を前に俺の独占欲は強くなってくばかりだった。

(花子先輩を一番に想ってんのは俺だっつの)



(20180211)



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