君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 09.


制限なんて付けたつもりは無いのに、知らずにあったストッパーは俺の足枷だった。



09.一歩、前へ進むココロ (西谷)


大地さんの怒りも静まって、それどころか愁眉な顔して負のオーラを纏ってた。
まあ、あれだけ騒いで勘違いでしたなんて言い難いのも分かるけど。


「大地さん、俺が花子先輩探しに行って上手く言ってみるんでそんな落ち込まないで下さいよ」

『悪いな西谷……でも今回はお前の言う通りアイツの話しを聞かなかった俺が悪いから』

『とか何とか言っちゃってしっかり掴んでるんじゃん、西谷の腕」

『言うなスガ』


さっきまでの威厳は何処に行ったのか。
旭さんみたくしどろもどろしちゃってかける言葉が見付からない。さっさと彼女を探しに行く予定だったのに、すっかりタイミングを失って。
心配で心配でしょうがないのに、大地さんの掌の力は強くなってく。


「ちょっと待ってて下さいよ、俺行って来るんで!」

『あ、西谷、大丈夫帰って来たよ』

「マジっすかーーーー」


良かった、スガさんの言葉に誘われて外の方へ視線を向ければ目当てだった彼女は、


『おかえり花子ー!』

『た、ただいま……』

『なに今更小動物みたいなフリしてるんですか』


月島の背中から顔を覗かせた。


『隠れててもしょうがないでしょ』

『つっきーそんな事言わないで』

『月島は花子の子守りしてくれてたんだなぁ、えらいえらい』

『その言い方止めて下さい』


眼の周りを赤くした彼女は月島の言う通り、ライオンの前で怯えるウサギみたいで、眉を下げて怯みながら構えてる姿すら物凄く可愛い。
守ってあげなきゃいけねぇって思わされる。


『ほら大地、花子に言う言葉あるんだろ!』

『あ、ああ……』


大地さんにの話しを振られた途端、強張る顔だって可愛いし、月島を壁にして踏ん張って様だってめちゃくちゃ可愛い。


『花子、』

『はい……』

『……、悪かった!』

『え、』

『落書き、お前じゃなかったのに、話し聞かないで一方的に責めた』

『大地……』

『嫌な思いさせて、ごめんな』


頭を下げる大地さんを見て気が緩んだのか、彼女は口を開けたまま。


『悪かった!許してくれ!』


うん、なかなおり
相変わらず月島の背中から抜け出さないで、顔だけはニッコリ、大地さんへ優しい声を向ける。
この笑顔の為に俺は頑張りたくて、めちゃくちゃ可愛い笑顔だから守ってやらなきゃって思ってて。


『あー良かった、疲れたわ俺』

『何言ってんだよ大地、謝っただけじゃん』

『緊張するだろこういうの』

『花子先輩も良かったじゃないですか誤解が解けて』

『うん!つっきーのお陰かな』

『そうですね、僕が居なかったらあのまま迷子みたいに泣いて終わりでしょ、情けなくて言葉がありませんよ』

『ひどいつっきー!』

『あははっ、月島も大地に負けず保護者してるじゃん!』

『俺は保護者じゃないだろ!』

『僕も赤の他人です』

『もう!何なの2人ともその言い方!!』


守ってやらなきゃって思うのは俺なのに、今そこには俺は居ない。頼りにして彼女が掴むのは別の背中だ。


『花子、西谷だって心配してたんだぞ』

『そうそう夕!さっきはありがとう』

「あ、ウス、」

『悪人から庇ってくれるヒーロー!超格好良かった!』

『悪人て俺かよ……』

『悪人て言うよりは娘を溺愛する余り嫌われた父親の図、に見えましたけどね』

『月島上手い!』

『だから保護者にするなって!』

『もう皆煩いから!アタシ本当に嬉しかったの!世界が皆敵でも、夕だけは違うって!』


夕だけはアタシの味方だって嬉しかった
それを聞いたら止まんなかった。


『『ーーーーーーー』』


俺が花子先輩の味方なんて、当たり前過ぎて、そんな事で恍惚に笑ってくれるのなら。
いつまでも月島の背中に居る彼女を引き剥がして、俺の腕の中に置きたいって思ってしまった。


『ーー、夕?』

「……花子先輩が、泣いてたと思うと心配で、でも良かったっス」

『うん、優しいね夕は』

「安心したんで水飲んで来る!冷や汗かいちまって喉乾いたんすよ!」

『早く戻って来てねー!』

「ウス!」


ーー彼女に触れたのは初めてじゃない。
何度だってあった、腕を組む事も背中合わせになる事も、頭を撫でる事だって何度もある。


「はぁ……」


だけど自分の意思で、力尽くでも閉じ込めたいと思ったのなんて初めてだった。
不意を付かれて驚いた彼女、大地さんもスガさんさんも月島だって瞠若を隠せてなくて。俺の我儘ひとつで穏やかだった空気を壊してしまった。


「格好悪ぃ……」

『そうか? 』

「!!」

『俺はそうは思わないけどなぁー』

「、旭さん!?」

『西谷が心配で追い掛けて来た、ははっ』


だったら、花子先輩が出てった時もアワアワしてないで追い掛けて下さいよ!男の俺追い掛けて、可愛い女の子追い掛けないでどうするんすか!
そう言いたいのを堪えて、旭さんが言う心配の意味を待ってみる。どうして俺が心配の要因になるのかが引っかかった。


『ごめんな、花子が出てく前にさ、スガと話してるの聞いちゃって』

「スガさん?」

『ずっとこのままの時間じゃいられない、てやつ』


失ってしまう事もある、あの時のスガさんの言葉だ。
真意が聞けないまま流れてったけど、旭さんも同じ事を考えてた、って事すか?


『西谷はさ、花子の事本当に好きなんだなぁって思うんだけど』

「そりゃ勿論すよ!」

『それ以上望まないだろ?』

「、」

『それって勿体無いとは思わない?』

「……………………」


勿体無い?
彼女が隣で笑えば俺は幸せだし満たされる。
それだけじゃ勿体無い、て事だろうか。


『大地みたいに父親心ならそれでいいんだろうけどさ、西谷のは違うんじゃない?』

「そりゃ、当然“愛してる”の方ですけど」

『だったら花子にこっち向いて貰えばいいんじゃないの?』

「え、」

『さっきのは盗られたくないって感情だろ?』

「ーーーーーーー」


彼女を閉じ込めたいと思ったのは独占欲。
彼女がベッタリだった月島に対しての嫉妬。
そんな事を考えちゃいけねぇって何処かでセーブしてた。それは俺の我儘でしか無いんだから、そんな情感は持ったらいけねぇんだって。
花子先輩が今みたいに自由に笑って怒ってれば、それを見守るだけが愛情だって思ってた。


『スガだって、後悔よりも頑張って欲しいから言ったんだと思うんだよ』

「後悔?」

『誰かに盗られたら嫌だろ』

「は、」

『相手が花子だろうが、別の誰かだろうが、自分の気持ち隠してないでぶつければいいじゃん。格好悪くねぇし、それが普通なんだからさ』


今迄ただ隣に居た事だって十分に幸せだった、それを勿体無いなんてはちっとも思わねぇ。
でも、気付かされたキモチ、感じた慾、それはもうどうやっても消せやしない。


「旭さん、ひとつだけ間違ってるんで」

『ん?』

「別の誰か、なんて絶対無いんで。俺は、花子先輩だから好きなんすよ!」

『ーーー、そうだよな』


旭さんに言われたから。スガさんに言われたから。
きっかけはそれでも彼女の隣には俺が良い、そう思ったのは自分の意思。月島から離したいと思ったのも自分の意思。
ありがとうございました、頭を下げて起こせば前だけを向いて体育館へ進んだ。

(花子先輩、大好きです)



(20180207)



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