君が咲いて僕も、咲いた。 | ナノ


 


 08.


手を差し伸べるなんて、そんなお人好しでもなければそう在りたいと思った事なんて無くて。
打算的に見えていたのに本当は理屈じゃないって初めて知った。


08.心と裏腹な声 (月島)


『花子!!いい加減にしろっ!!』


突然の怒声、ネットを張っていた手は必然と止まる。
体育館の入口ではあのヒトと澤村さんが睨み合っていた。


『なんか、いつもと違って澤村さん本気で怒ってない……?』

「そうかもね」


自身が怒られてる訳でも無いのに山口はビクッと肩を跳ねさせて、僕の後ろへ回った。一同の視線もそちらへ全て向けられて、それでも2人は睨み合ったまま引く気配は皆無。


『教科書の落書きって、それだけであんなに怒んのかな、元々機嫌悪かったのかな……そりゃそんな事、俺等がしたらタダじゃ済まないだろうけど』

「そうじゃないでしょ」

『え、つっきー、どういう意味、』

「本当、信じられない」


はぁ、溜息ひとつ落としたら、あの人が出て行った方へ足を向ける。小さい声で『つっきー頑張れ!』なんて聞こえたけど何をどう頑張るんだか。俺はただ、あのヒトの馬鹿さ加減に呆れるだけで、昼休みの仕返しに一言二言与えてあげようと思っただけ。


「それ、隠れてるつもり?」

『!』

「見付けて欲しいって言ってるのと変わらないでしょ」


体育館を抜けて部室棟の裏、壁から少しハミ出た長い髪。陽の光を受けて栗色に光るそれはサラサラ揺れて僕を導いた。
さて、僕を苛立たせた償いをしてもらおうか。
思いながらあのヒトの前に座るけど、


『………見付けてなんて言ってない』

「ーーーーーーーー」


上を向いた顔は眼を真っ赤にさせてて、口唇もへの字を描いてグシャグシャ。とんでもない破壊力だった。
用意しておいた皮肉すらぶっ飛ばしてくれたお陰で僕の声はただの二酸化炭素だけで吐き出される。
そんな事なんて知る由もないこのヒトは、鼻をすすってゆっくり口を開いた。


『何で、あんな、怒るのか、分かんない』

「……花子先輩がやったと思ってるからじゃないですか」

『アタシじゃないって、言ってる』

「それも日頃の行いでしょ?」

『っ、つっきーもアタシがやったと思ってるの!?…………そりゃ、怒られる様な事、してない訳じゃないけど、今回は本当にアタシじゃない……』


強かった黒目は弱々しくなってユラユラ揺れる。
これだから先輩達はこのヒトに甘くしてしまうんだろうか。強さも弱さも全てをぶつけて来るヒトだから、受け入れて貰えるんだろうか。
ほんの少しだけ、今は、理解出来る気がした。


「花子先輩がやったなんて、僕言ってないんですけど」

『、』

「冷静さ無くしてる時に何言っても水に油な事くらい分かるんじゃない?」

『そう、かも、しれないけど』

「まぁ、澤村さんも澤村さんですけど。こんな単純で馬鹿なヒトの嘘と本気も見分けつかないなんて」

『ひ、ひっどい!アタシは皆に伝わる様に、分かりやすい表現してるだけだもん』

「やっぱ馬鹿」

『ちょ、つっきー、今くらい優しくーーーー』

「そんくらいの方が、花子先輩にはお似合いなんで馬鹿でも良いでしょ」


怒鳴り合うなんて顔を歪めるのは似合わないから。
ヘラヘラ笑って文句言ってるのが調度良い。


「馬鹿みたいに、笑ってればいいじゃないですか」


狐につままれる
まさにそんな間抜け面を公開してくるもんだからこっちも口角を上げずにいられなくて。変な顔、それを込めて頬っぺたをつねってやれば真ん丸の眼は糸になってボロボロ滴を零した。


「何で泣くんですか」

『つっきーが、笑うから』

「僕に感情持つなって言ってる?」

『言ってないもん、つっきーが優しいから、嬉しいだけじゃん』


ビヨン、頬っぺたを引っ張る度にワンワン喚いて収拾つかない。このヒトを相手にしてると本当に手が掛かって面倒だけど、やっぱり僕の口角は上がったままだった。


「はい、もう煩いから黙って。行きますよ」

『行くって、何処に、』

「体育館」

『え……やだ……もう帰る』

「はいはい、僕も一緒に行ってあげますから」

『ほ、本当?』

「あと3秒しか待たないんで」

『やだやだ待って待って』


今日のつっきーは格好良い
そんな事言われたからって西谷さんみたいにデレデレするつもりは毛頭ない。だけどそれでも、掴まれた腕は嫌いな暖かさでは無かった。

(春の陽射しみたい、とは言ってあげないけど)



(20180205)



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