君を知った、今日 | ナノ


 


 05.



『なぁ、ほんまに知らんのか?俺等ん事はともかく丞相くらい分かっとる筈やろ?せやないと……』


アタシの顔色が変わったのを見て、さっきまで笑ってた謙也も怪訝を向けた。
そりゃ、そうだよね。経緯を説明したと言ってもアタシだって理解してなかったんだもん…まさか今アタシが居るこの場所が、時代も国も違うなんて思わなかったから。
ただ、アタシの知ってる皆が居る、だけどそれは別人で、後は何も分かんなかったんだよ…謙也だって瞠若して当然じゃん……。


「あの、一応、確認したいんだけど…」

『、え?』

「今、何年なの…?」

『何年?』

「西暦…じゃないよね、年号って言えば通じるのかな…」

『い、今は建安2年やけど…それがどないしたん…?』


建安元年。やっぱりそうなんだ。
それを聞いたところで“いつ”かは理解出来ないけど“今”とは違う事くらい安易で。
どれだけ受け入れたくないって首を振っても、謙也の表情が夢では済まされないって語ってた。


「謙也…?」

『あ、うん』

「やっと、分かったよアタシ」

『分かった、って?』

「嘘だって思うかもしれないけど、今から言う事信じてくれる…?」


一瞬眼を揺らした後、謙也はゆっくり頷いてくれた。それにアタシもほんの少し安堵を感じながら今度こそ全てを打ち明けた。
アタシがあの場所に居たのも、皆を知ってるのに知らないのも、全部タイムトリップした所為なんだって。だから何も分からなかったんだって。


『………………』

「や、やっぱり信じらんない…?アタシだっていっそ夢だよって笑いたいけど夢じゃないし…ほ、ほら、衣服だって全然違うでしょ?だから、」

『ハァ………』

「謙、也?」

『…………………』


溜息吐いてそのまま黙り。
本当の話しに代わりはないけどやっぱり無理があった?そんな突拍子も無い話し誰が信じるかって?
でもそれ以上説明しようがない。もしこのまま信じて貰えなかったらアタシどうなるの?此処に居る蔵なら…躊躇なく殺される、かもしれない。
そんなの嫌だ。ちゃんと元の世界に帰ってアタシが知ってる皆に会いたい。こんな変な時代の皆じゃなくて、いつも大事にしてくれてた皆に。
だからまだ死にたくない…再度不安が込み上げると途端、ポンと背中を叩かれた。


「わ、」

『変な奴やなお前って!』

「え、」

『未来から来たなんやあり得へん!って言いたいけど信用するしか無いやん』

「え……?」

『それなら今迄の話しとか行動にも筋が通るし、お前の言うた通りそんな珍味な衣服なんや何処にもあらへんからな!』

「ほ、本当に信じてくれるの…?」

『おう!信じたる!さっきお前が眼覚まして初めて顔合わせた時、演技しとんちゃうかって疑いたかってんけど真っ直ぐ俺ん事見てたから』

「、」

『何言い出したとしても俺は信じたいって思ってん!』

「―――――――」


アタシが知ってる謙也とは別の謙也だけど。謙也は謙也なんだ。
普段悪ふざけしたり調子良い事言ったりするけど、本当はしっかり前を見てて頼れる人。それは今も昔も変わってなかったんだ。歯を見せて笑う謙也はアタシが知ってる謙也と同じ。
なんか、嬉しい。


『で、お前は……、の前に名前何や?まだまだ話しする事いっぱいあんねんから先に自己紹介しとこか!』

「あ、アタシは、名前、です…」

『名前やな、俺は忍足謙也や!って名前も知っとったな』

「うん!今と同じなのが不思議だよね」

『せやな、同じ名前で同じ顔って不気味やけど面白い話しやで!せやけどこっちの謙也も宜しくな!』


そういえばそうだ。此処が昔の中国なら何で同じ名前なんだろう。蔵だって、魏で1番偉い人って言えば…何だっけ…思い出せないけどもっとちゃんと中国っぽい名前だった気がする。
それにどうして日本語が通じる訳…?やっぱり夢って事?だけど夢じゃない。アタシが此処に来た事で何かが少しだけ変わってるの?アタシにとって都合良く…

考えたって分かんないものは分かんないけど数時間前、本当に何も分からなかった時とは訳が違う。右も左も分かんなくて、蔵に怯えて、タイムトリップした事に青ざめて。正直この世の終わりくらいに感じてたけど今は少し前向きになれる。
それでもまだまだ不安要素が解消された訳じゃないけど、謙也の笑顔に救われた自分が居た。


(20110527)


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