君を知った、今日 | ナノ


 


 04.



全部吐け
そう言われたって何をどう説明すれば理解を得られるのか、アタシは皆を知ってるけど目の前に居る皆の事は知らないなんて…自分でも現状や思考に困惑してるのにソレを言葉にするだとか難題にも程がある。


『……で?何が言いたいんかな』

「だ、だから…アタシの知ってる蔵はこんなに冷血で淡白じゃないし、そんな…非情な顔なんかしないもん!」

『それは何や?俺が冷酷無慙で無慈悲・不人情の陰惨な人間やって言いたいんかな?』


にっこり、効果音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべながら背景には黒い空気を漂わせる。
そんなのやっぱり蔵じゃない、そう思わずに居られないアタシだけど、蔵より一歩後ろに下がってこの場を傍観してた光や謙也やオサムちゃんだって苦笑失笑の色で眼を明後日に向けてる。同一人物かと言うより前にそれだけこの人の眼は笑ってないっていう事なんだ。


『まあええわ。話しが完璧脱線する前に戻すで?』

「、」

『つまり自分が言うてる事を整理すると、俺等と同姓同名で同じ顔をした別人を知ってるって?』

「そ、そう、だよ…」

『……はは、アハハハッ!』

「っ、」

『そら面白い話しやなぁ』

「じゃあ、信じてくれ――」

『…なんて言うと思うんか?』

「――――――」

『それならいっそ俺の首を取りに来た、そう答えた方が可愛気あるっちゅうもんやで』


蔵が声が上げて笑って。額を押さえながら俯いて、それから顔を上げた瞬間。
本当に、殺されるのかと思った。

眼が笑ってなくたとしても笑ってるフリをしてくれてる方が良かった。刀を突き付けて冷淡な眼で殺すって言われてる方がまだマシだった。だって…あんな狂気と殺気と憎悪で埋められた表情、人間が出来るなんて思わなかったから。
ビックリして声が出ないってものじゃない。身体が芯から凍り付いて、あの空気だけで本当に心臓が止まったって、錯覚するくらい…好きな人の顔を怖いと思った。


『謙也』

『あ、お、おお…』

『後はお前に任すわ。その代わり絶対眼離すな』

『わ、分かった』


謙也1人をこの部屋に置いて出て行く背中に縋りたいどころか見たくないのと眼を伏せるのはアタシが弱いからなのかな…だけど、あれが蔵じゃないとしても蔵の顔をしてる限り、拒絶よりも欝な憎悪を見せられる方がキツいから。
だったらあの人そのものを見たくない。


『なんか…ごめんな?』

「、」


アタシが必死に口唇が震えるのを堪えてると、柔らかい声と同時に暖かい体温が手に触れた。
そっちへ振り返れば申し訳なさそうに苦笑した謙也がシュルシュルと手首の縄を解いてくれて、水で湿らせたタオルの様な布を当ててくれる。


「え、っと…嬉しいけど、良いの…?」

『眼離すなとは言われたけど、縄解いたらあかんって白石言わへんかったやろ?』

「それは屁理屈って言うんじゃ…」

『ちゃうちゃう!白石はああいう奴やから“解いてやれ”なんや言われへんねん』


“言えない”じゃなくて“言わない”の間違いだと思うんですが忍足君?やっぱり別人でも謙也は謙也な気がする……とは思ってても口にはしないけどさ、この状況で。
でも、蔵の名前を口にした時の謙也は…
冷たい男だって言い切る様なモノじゃなく見えたのは何で、かな。


『っちゅうか…ああいう奴やから、やなくて、そうせなあかんっちゅう問題なんやけどな』

「え?」

『それが白石の決めた道で、俺等が付いて行くって決めた道やねん』

「ごめん、言ってる意味が良く分かんないだけど…」

『せやから、魏が一番上に立つには自分にも他人にも厳しいっちゅう話しや!なんて臭い言い回しやねんけど』

「は…?」

『は、って何やねん!自分訳有りみたいやけど国の事くらい分かるやろ!魏の頂点に居る男が白石っちゅう事くら―――』

「…………………」

『まさか、それすら知らへんのか…?』


何となく見えて来たスタートラインなのに絶望的な感情が沸き上がるのは何でだろう。

“魏”
それだけで浮かんで来たのは想像を超える世界。その言葉、耳にした事があったんだ。勉強なんて嫌いだし今の政治も歴史だって苦手分野なのに、それが昔の中国で、当時3つに分けられてた内のひとつだって……
よりによって何で、そんな事知ってるのアタシ…。


(20110523)


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