君を知った、今日 | ナノ


 


 02.



あと1時間後にはアイスがアタシを待ってる。それなきゃ俄然ヤル気も出るって話しだよね!
スコアとボールペンを片手にベンチに座って、手首に潜らせたシュシュで髪を束ねようとした瞬間だった。


「、っ………」


今までに感じた事無い、衝撃的な睡魔に襲われて瞼と身体が重くなる。何十倍もの重力が掛かってる様に頭痛を呼んで、声も出せないまま視界は暗闇に変わった。


「…………、なに、今の…」


それでも眠った感覚は微塵も無くて直ぐに視界は拓けた。何が何だか分かんないけど頭痛だってもうまるっきり感じ無い。
もしかして貧血だったのかな。ゆっくり身体を起こして深呼吸でもしようかと思うと、更にそこにはあり得ない景色が広がる。


「な、なに、これ…」


さっきまで学校に居たのに。テニスコートで騒いでた筈なのに。
アタシの眼に映るのは一面埋め尽くす木々だけ。テニスコートなんか見えない。それにスコアだって無いし、さっきと変わらないのは制服の上から羽織ったジャージ姿、それだけ。


「嘘でしょ…?」


まさかアタシ本当は眠ってて、これは夢、って事かな…?それなら訳分かんないこの状況も納得出来るし寧ろ摂理じゃん!
じゃあとっとと起きて蔵や皆に体調の心配でもして貰いたい。痛みを堪えてぎゅっと頬っぺたをつねってみる。

……だけど起きられる気配すらないのは、何でなの?頭をボカボカ殴ったって駄目だし、夢にしては思考がハッキリしてるって言うか……厭に、リアルな気がする。
本当にアタシどうしちゃったの…!恐る恐る右に左に眼を向けて、どう見たって山のど真ん中としか思えない景色に泣きたくなると、


『そこで何してんねん』


聞き慣れた声が耳に届いて。
夢の中でも蔵が助けに来てくれたんだって、感激で振り返ったのに。


「あのね、アタ――――」

『動いたら斬る』


鼻の数センチ先には銀色に光る鋭いモノ。
普段それに似たモノは見てるけど、比較にならない大きさは一瞬アタシの呼吸を止めた。包丁なんかじゃない、刀と呼ばれるんだろうソレに言葉が出なくて。
“蔵ってば何の演劇やるつもりなの?”そう言ってやりたいのに見上げた先には本人だとは思えない別人の様な冷酷非道な眼をした蔵が居る。


『…見た事ない顔やな。たった1人で奇襲でも仕掛けるつもりやったんか?それとも火計か?』

「え…?何、言ってるの、蔵……」

『、!』

「そういうの、止めようよ…何か怖いし、アタシはいつもの口煩いけど、優しい蔵が、好きだよ…?」

『………本陣に連れて行け』

「ちょ、蔵――――っ!」


あれは蔵じゃ、ないの?
そう思いたくなるくらい冷たい声は今まで聞いた事なんか無い。アタシを叱ってる時でさえ甘さを捨てきれないのに何でこんな時にそんな顔、するの…?

お願いだから夢なら早く醒めて。いつもの蔵に逢いたい。
何度も繰り返し祈るのに、身体に捲き付けられた縄はギチギチと痛みを走らせるだけでこれが現実とでも宣告してるみたいだった。

何でこんな事になったの?さっき蔵は何て言ってた?火計だとか奇襲だとか奇天烈な事言ってて…それに本陣って。連れて来られたこの場所は何なの?沢山の男の人が皆、刀か槍か何か武器を持ってる。
実際見た事も無いし歴史の授業で少し聞いただけだけど…これじゃまるで戦国時代の戦じゃんか……?


「………………」


そんな訳無いよね。ある訳無い。きっとこれは夢だし、夢の中で皆が演劇部に入ってる設定だよ。あの刀だって偽物としか考えられない。
そう信じたくて、信じるしか出来なくて、それからどれだけ時間が過ぎても顔を見せない蔵を浮かべては瞼を落とした。こんな状況で寝るなんてあり得ないけど、次に眼が覚めた時はテニスコートで蔵に逢えますように、って。


(20110502)


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