羊VS梓 | ナノ


 


 02.




僕が、大好きな女の子を追い掛けて日本へ来てから9ヶ月が経った頃。朱華色の花弁が空に舞う中で彼女を見付けて、毎日毎日彼女の頬笑みだけを見つめてきた。
桜が散れば燦々と暑い太陽が照りつけて、緑から紅へ木々が衣替えをすれば白い息が出る季節に変わって。

今日も冷え込むなぁなんて窓から星を見上げたら寮の入口で俯く頭が見えた。冷気を含む風にサラサラと流れる髪を映せば誰より愛しい存在だと安易に分かる。



「名前、何してるの」

『、羊君……』

「そんなとこに居たら風邪引くよ?僕に会いに来てくれたなら早く上がって来てくれなきゃ」

『………………』

「校内唯一の女の子が部屋に来たなんてバレたら大騒ぎだよ、僕は校内唯一の幸せ者だけどね」



俯いた顔を上げて今にも泣き出しそうな眼を僕にぶつけたら『迎えに来て』なんて。言われなくても行くよ、その言葉の代わりに愁眉な笑顔を向けると、彼女は両手を伸ばした。早く、って言う様に。



「…僕が居るんだから我慢しなくて良いんだよ」



もう何度目になるのかな。彼女がこうして僕の部屋に来てくれたのは。
いつもは恍惚な顔して1人の男の子を話しをしてるのを聞いてあげるんだよね、だけど今日は……。



『何があったか、分かるの…?』

「誰に言ってるの?僕がどれだけ名前を見て来てか知らないとは言わないでしょう?」

『……………っ、』



そっと頭を撫でてあげたのを合図にわんわん声を上げて涙を落とす。辛かったよね、そんな一言で済ませられる想いじゃない事は理解してるから髪に触れる手は休めない。
何度何度も行ったり来たりを繰り返して、彼女の髪が僕と重なれば良いのに、そんな馬鹿な事すら考えてしまう。



『羊君、アタシ本当は、期待してたよ…フラれるかもって思いながら、きっと叶うって、信じてた…』

「……うん」

『だからだよね、憧れのそれ以上それ以下でも無いって言われて哀しいのは…』

「………………」

『それなら、憧れなんて要らなかったよ…憧れじゃなくて、梓君の気持ちが欲しかったのに!』

「…名前、」

『だけど、一生泣いても良いから好きで居たいって思った。好きなの止めらんないって…でもやっぱり、辛くて泣くのは嫌だ…今は良くてもいつか梓君に好きな女の子が出来たら、梓君の前じゃ笑えない…』

「うん…。僕も嫌だな」

『え?』

「今日は仕方ないって思い込んだとしても、名前がこれからずっと泣くなら僕だって耐えられない」



本当は君を泣かせた事、謝れって殴りに行きたいくらいなんだ。そんな事したって相手が悪い訳じゃないし、君が余計に傷付くだけだから頭の片隅にしまっておくけどね。
……だけど今こんな事を言うのは卑怯なのかな。



「ねえ名前。僕はずっと君が好きだった。名前があの男の子を好きだった様に、ずっとずっと見て来たんだ」

『……………』

「名前は今日頑張ったんだから、少しくらい逃げてみない?」

『逃げる…?』

「うん。僕を利用すれば良い」

『―――――』

「名前が泣かないで笑える様に、僕は君を幸せにしてあげるから」



イエス、返事をしないで飛び込んで来た彼女をきつく包んで、僕の薫りを全て彼女に捧げるみたく愛しい彼女を抱いた。
どんな事をしたって手に入れたかったんだ。愛してるから。




(20110426)






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