01.
『す、好き、です…』
部活中、今日はらしくなくずっとソワソワしてた名前先輩。挙動不審にキョロキョロしたり、何度も溜息を吐いたり、頭を抱えてみたり。きっと僕だけじゃない、弓道部員皆が気になってたとは思うけど1人先輩が帰ってく背中を追い掛けたのは僕だけだった。
茜色の空に星が光り始め、もう夜に変わる。そんな背景を背負った先輩は僕に『待ってたんだ』と伝えて顔を赤くした。
「……え?」
『ご、ごめんね梓君、急に変な事言って…だけど本気だから』
本当に、好き。
そう言って真っ直ぐな視線をぶつけられたら一瞬だけ、心臓が止まった気がした。
僕が知ってるあの人がこんな風に凛とするのは的と向き合った時だけだったから。的に背を向けたら人が変わったみたいにヘラヘラ笑って気が抜けた顔してて。誰を相手にしててもマイペースで甘えたがりな人。
だから、僕だけに向けられた感情があるなんて知らなかった。
「………………」
『え、えっと…返事は、無理なら今じゃなくても、』
「…すみません。先輩はきっと嘘なんて要らないと思うからハッキリ言います」
『は、はい』
「先輩は僕の憧れです。ただそれだけで、それ以上それ以下でもありません」
『――それって、弓道でって事、だよね…?』
「はい。だから付き合う事は出来ません。すみません」
名前先輩が嫌いな訳じゃない。嫌な訳じゃない。
想像が出来ないんだ。誰かと必要以上に親しくなるという事も、特別な情感を抱くという事も、自分が想われるなんて事も…それがどういう事なのか、分からない。
自分には不要なものだって思ってたから。
『そ、だよね。分かってたから大丈夫!謝らないで!』
「、」
『明日からも弓道部の先輩として宜しくお願いします!公私混同はしないから、ね?』
「、分かりました…」
『ごめんね引き留めちゃって、それではまた明日!』
「また、明日…」
最後はいつもと同じ笑顔を見せたけど。それでも黒い影が見えた気がしたのは真っ暗になった空の所為なんだろうか。
何でかは分からないけどチクリとする胸の痛みを抱きながら小さくなってくあの人の背中を見つめてた。
きっと明日からまたいつも通り、戯れたがる猫みたくニコニコ笑ってる先輩が居るんだと信じてた。
(20110426)
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