02.
君が好きです。
ほんまは言いたくて、ずっと喉でつっかえてた。
1秒でも、
timeless.2 見えないモノ
アタシの眼に映るモノが全て真実。オサムちゃんは時々難しい事言うよね。アタシから見た謙也は……気があるんじゃないかなって思う。だけど恋とか愛って眼には見えないから、だから言葉が無きゃ分かんないもん。
『名前、』
「あー白石さん」
『何や白石さんて』
「たまには蔵じゃなくて白石さんが良いかなって」
『その基準がよう分からへんけど恋煩いばっかしてスコア忘れたらあかんよ?』
「分かってますって」
ボールペンを持って一応はスコアに集中してる素振りはあったのに、心此処にあらずっていうのは蔵にはお見通しらしく。オサムちゃんに続いて今度は恋煩いって。煩い過ぎて困ってるのはホントだけど。
「ねぇねぇ、蔵はどう思う?」
『どうって?』
「オサムちゃんはアタシの眼に映るモノが全てだって」
『それって謙也ん事?』
「そうそう」
早速マネージャー業を放って質問を投げたからか、呆れたみたいに曖昧な笑いを浮かべた蔵は仕方ないとでも言う様にアタシの頭をポンポンと撫でた。
『せやなぁオサムちゃんの言う事は最もやねんけど…』
「けど?」
『名前はどう思うんや?』
「分かんないよ人の気持ちなんか。アタシには謙也の心は見えないもん…」
ポンポンと動く手が宙に浮かず上下に動いて蔵の手がさっきより優しさを増すと、アタシよりもっともっと全部を見据えてる顔で憂色を交えて笑ってた。
『眼に映るモノが全てっちゅうのも頷けるんやけど、名前にはまだまだ見えてない事のが多いんちゃうかな』
「だから言ってるじゃん!アタシは分かんないって、」
『うん。謙也ん事もオサムちゃんん事も、自分の事も知らなあかんな』
「え?」
『さ、お喋りは終わりやで!部活も頑張って貰わなあかんし』
「ちょ、ちょっと蔵、」
『自分等何やってんねん…!』
上下に撫でてくれた手はまたポンポンと叩く様な手付きに戻って。
謙也だけじゃなくてオサムちゃんの事も自分の事もとか、そんなの意味分かんないし絶対的に気になる言い方して終わらせるとか狡い。悩みの種が増えただけで部活どころじゃないんですけど?
そう反抗したいのに遮られた声のお陰で、続く筈だった言葉はただの二酸化炭素として消えてった。
『真っ赤な顔してどないしたんや謙也ー?』
『あ、ああ阿呆!!とりあえず離れろや!』
『うん?離れろって名前から?』
『せや!』
『何で謙也が怒るんか分からへんけど?』
『、うううっさいわ!良えから離れろっちゅうんじゃ!』
湯気でも出て来るんじゃないかってくらい耳まで真っ赤になった謙也を前に、アタシは呆気に取られて呆然としちゃって。
別に変な事なんか、してない、じゃん?
『ええか、異性に触って良えんは付き合うとる奴等だけやねん…!』
『何やそれ、今時ヴァージンロードをヴァージンで歩くなんやあり得へんのやで?』
『ああ阿呆か!そんなぶっ飛んだ話ししてへんわ!』
『相変わらず謙也は頭が堅いっちゅうか何ちゅうか…なぁ名前?』
「え、あー、うん…?」
『謙也にそんな事言われる覚えも無いし、謙也がそんな事言う権利も無い筈やで』
『、ええから早よ離れろって!!せやから白石はスケコマシ言われんねん…!』
『へぇ、スケコマシなんや俺は』
『あ、』
悪戯にニッコリ笑う蔵に対して途端赤から青へ顔色を変える謙也を見て、いつもなら地雷を踏んだ謙也に爆笑するとこだけど…
“早よ離れろって!”
アタシには嫉妬にしか見えなくて幸せを感じるだけだった。嬉しいとか可愛いとか、そればっかり浮かぶのに。だったら何でアタシと謙也はいつまでも平行線を辿ってるの?
やっぱりただの勘違い、なのかな。
(20100524)
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