俺の慾は、
あの人を見たいってコト。
lark
incident.3 慾に忠実な人
茜色の空に包まれたら漸く1日も終わりで、あとはブラブラ家路を歩くだけ。甘いモノが食べたくなった時はコンビニに寄ってぜんざいを買うて、風呂入って飯食うてパソコンを弄って、気が済んだら明日に備えて寝る。
学校が終わると自由時間やっちゅうのは言う迄も無く当然の事やのに今日は、そうでもないらしい。
『財前君財前君、コンビニ寄ってアイス食べようよー?』
「……ちゅうか何処までついて来るねんて」
『え?せっかく財前君とお友達になったんだから財前君を送って行こうと思って』
「逆やろ普通」
一緒に帰ろうと声を掛けた覚えもなけりゃ掛けられた覚えもない。せやのに金魚のフンみたくチョロチョロついて来るあの人は躊躇いもなくあーだのこーだの話し続けてた。
『男の子が送られちゃいけないなんて決まりは無いんだよ財前君』
「あーはいはい」
『それに元彼はいつもアタシに送れってバイク運転させられてた』
「は?」
『歩くの嫌だとか疲れるの嫌だって言ってね、アタシにバイクの免許取れって言うんだよ!それで免許取ったら今度はバイク買えって…』
「……それ、単に足にされてただけなんちゃいます?」
『で、でも、ちゃんとデートとかしてくれて、』
「アンタの行きたいとこ?」
『………………』
「はいビンゴ」
『ですよねー…』
ほんま口から出るのは変な男に捕まってた話しばっか。こんだけ色んな男と付き合うとったら大概学習能力ついても良えと思うんやけど。
そら聞いとるこっちは面倒臭い反面ウケるけど。
「いっこ聞いても良えです?」
『うん?何々なにー?』
「男選ぶ基準て何?」
『え、』
「せやから、そんな変な男と付き合う理由は何やって聞いてるんですけど」
『……………か、顔、かな…』
「………………」
『そ、そんな軽蔑の眼差し向けないでよー!!』
顔で選んだ結果が全部これ。見る目が無いって言えばそれまでやけど、それでも顔が良え男で少しはまともなんが居っても良いとは思う、のは間違ってない筈や。
『アタシだってさ、ちゃんと外見も中身も両方見て好きにならなきゃって思うよ、思うんだけど…』
「で?」
『でも顔がドストライクだったら突っ込みたくなるじゃん?』
「で?」
『付き合ってみなきゃ分からないって事も沢山あるし、人の気持ちなんか眼に見えないから分かんないもん…』
「面倒臭」
『め、めんどくさ…?!』
「うそうそ冗談なんで泣かんで下さい」
冗談な訳ないやろ。そんな持論並べられても面倒臭い以外にナニモノでもないわ。
まあ、でも…素直に生きられるのは、少しだけ羨ましいとも思う。今まで恋愛なんや自分にとって特別必要やと感じた事はないから。
『…財前君』
「はい?」
『……コンビニあるよ』
「………………」
『アタシ、アイス買って来るからちょっと待っててね!』
今にも泣くって顔しながらソレか。あの人にとって欲望っちゅうもんは何より単純で底が知れへんのや。恋愛に対する欲も食に対する欲も全部が全部満たしたくて仕方ない、我儘な女。
『ざ、財前君…』
「、」
今までは絶対に我儘と自己中な奴だけは関わりたくないって思ってたけど、
『あのね、2円足りない…』
「………………」
『財前君とアイス食べて友情分かち合おうと思ってたのに2円足りない…』
コンビニのドアから、結局泣いて顔を出すあの人を見ればやっぱり思った。
「俺が奢ったるんで大人しくしといて下さい、名前先輩」
もっとこの人を見てみたいって。
(20101009)
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