後から気付くことは新鮮で、
もっと知りたく、なる。
lark
incident.2 本当は普通
『財前君て、イケメンなのに超良い人っ!!』
「そらどーも…」
わんわん大声で泣き出せば幾ら外で部活をやってたとしても周りは直ぐに気が付いて視線を集めるし、部長とか謙也先輩あたりからは『女の子泣かしたんか財前は』そんな怪訝な眼を向けられて最悪やった。俺のせいやなくて勝手に思い出し泣きしてんのやからノータッチで居りたいのは山々やけど…俺の名前を連呼して泣かれたら流石にシカトは出来ひんやん。
“名前先輩の男見る眼が悪いんやなくて、男の見る眼が無いんやと思います”
とりあえず気休めに言うた言葉やったけど途端に喜悦を全面に出して恍惚な顔。単純と言えばそうやけど…この極端なテンションに付いていけへん。
『財前君、また話し聞いてくれる?』
「は、」
『やっぱ駄目だよね…こんな話し聞いても面白くもないしメリットが無いじゃんね…良いんだ、アタシなんて所詮……』
「あー、分かった聞く聞く!聞きますよって!」
『やった!有難う財前君!』
「……………」
まんまとハメられた気分や。
先輩等にどやされんのも面倒臭いけどこれからこの人の相手していくのも超絶怠い。まあ相談役と言えば部長がお似合いやし、その内俺やなくてそっちに行くやろう。それかマネージャーに飽きて部活も辞めるやろ。
そう思ってた。
『財前君、一緒に帰ろうよっ!』
「え、は、俺?」
『うん、財前君て財前君しか居ないじゃん?』
「はあ…」
『断られたらショックだからどうしようって思ってたけど良かった!やっぱり財前君て優しい!』
俺はまだ肯定も否定もしてない筈やで。せやけど今から無理って言うたとしたら多分、また泣く。
それなら今日は我慢すれば良い、暫くの間だけ我慢すればきっと解放されんねん。
『――それでね、アタシは泥棒じゃないって説明したんだよ!だけど信じてくんなくて、単に別れたい口実かなって』
「フーン。そうやとしたらその男が阿呆や思いますわ」
『え、そうなの?』
「後腐れ無く別れたいなら“好きやない”の一言で良えやろ、一々面倒臭いすわ」
今だけ、そう思うと適当に会話する事は出来た。延々と過去の男について話しされるのも普通じゃ体験せえへんやろって、ある意味面白いし。
どっちか言うたらこの人が男引っ掛けて笑ってるタイプに見えるのに下着泥棒って。ほんま無いやろ。せやけどそれより……
「何でテニス部でマネージャーやる気になったんです?」
『えー?それはオサムちゃんが、恋愛だけが全てじゃないって』
「それで?」
『出逢いは何処にでもあるもんだし、無理に頑張る必要無いから学校は学校で楽しめば良いって』
つまり体よくオサムちゃんに丸め込まれたんか。華が欲しいとか、良く動いてくれるマネージャー欲しいとか言うてたしな。それでこの人が適任やったかと言われたら何とも言えへんけど。
『まだアタシ、テニスの事は分かんないけどさ』
「、」
『マネージャーなって良かったよ!財前君とも知り合えたから!』
「――――――」
『アタシもテニスの事勉強して、財前君や皆の力になりたい』
「………………」
『だから、急にウザイって思われるかもしれないけど宜しくね』
怪訝に思ってた筈のビッチやのに。屈託なく笑った顔は普通の女で、驚いた。
せやからまあ、もう少しは変なテンションに付き合うても良えかなって。
「期待、してますわ」
『――何今の!何か財前君てマダムキラーって感じ!!』
「やっぱ意味分からへん」
(20100907)
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