恋愛に興味が無かった、と言えば嘘やけど喉から手が出るほどに求めたことは無い。
況してや彼女にしたい女が直ぐに現れるとは思う訳無いやろって。
lark
incident.1 面倒臭い女
『彼氏募集中です!宜しくお願いしまーす』
ある日突然、むさ苦しい男だらけのテニスコートに場違いな女がやって来た。
謙也先輩に負けへんくらい色素が薄くグルングルンに捲かれた髪、ファンデーションで真っ白になった顔、付け睫毛もアイライナーもグロスも決め過ぎなくらいに塗りたくられて制服やって自分仕様。どこぞのキャバクラ嬢が迷い込んだかと思えばオサムちゃんの口からは“マネージャー”と発せられて俺は勿論、先輩等も呆気に取られた様に瞬きを忘れてた。
それが昨日の話し。
『掃除完了っ!白石くーん次は何すれば良いのー?』
『めっちゃ綺麗になってるやん!有難う』
『何て言うのー?やっぱり始めるととことんやらなきゃって思っちゃって』
『偉い偉い!せやなぁ次は…』
眼を真ん丸にしとった筈の部長は既に切り替えて初心者マネージャーへの対応になっとるけど。
『名前ちゃん、頼めるやろか?』
『どんとこいに決まってんじゃーん!』
本人も一応はヤル気をアピールしとるらしいけど、どう見ても無理があるっちゅうか。相変わらず顔と髪の毛は盛られとるし制服の下に短パン履くだけって。
男漁りに来たなら別を当たれば良えのに。相手するのも面倒臭い。
どうせ1週間もすれば根を上げるやろうし俺はなるべく関わらへん方向で居ろうと思った。
“あの時”までは。
『はいドーゾ』
「…ドーモ」
『えっとー、誰クンだっけ?』
「……財前です」
『ざいぜん…美味しそうな名前じゃん!』
「………………」
関わらへんって決めたってドリンクとタオルを渡されたならあからさまなシカトは出来ひん。アッハッハッと大爆笑して本人は愉快かもしれへんけどやたらめったらテンション高い女に何を返せば良えねん…ほんま面倒臭い。
『ねぇねぇ財前君は彼女居るの?』
「…居らんけど」
『あっはは!アタシも彼氏居ないんだよ同じだね』
「昨日聞きました」
『あーそういやそっかぁ!』
別にこの女に何かされた訳やない。とことん容姿が嫌いなタイプっちゅう訳でもない。
ただ、第一印象があまりに盛ってますみたいなビッチにしか見えへんかったから怪訝やねん。
「…ひとつ、言わせて貰いたいんやけど」
『えー何々?もしかして携帯教えてとかぁ?やだやだ全然教えちゃうけど恥ずかしいってば!』
「そうやなくて」
『え?』
「男目当てなら街でも行ってナンパ待ってた方が正しいとちゃいます?」
『――――――』
「こんなとこで何時間も汗水流したって男が出来るとは限ら、」
『、っ………』
「へ、ん…………」
なんでや。なんでやねん。
そこで泣くなや…!!そら見ず知らずの人間にそんなん言われる筋合い無いとは思うかもしれへんけど、普通泣くより腹立てるっちゅうもんやろ!
俺からすれば勝手に泣けやとは思っても後々部長からネチネチ言われんのは俺やぞ。下手したらオサムちゃんも入って来て最悪小春先輩、ユウジ先輩って続くんや。ああ考えただけで嫌や最悪や意味分からん。俺は間違ったことなんか言うてへんし寧ろ正論を述べてやっただけやん。
何でこんな煩わしい思いせなあかんのや…!
「…あの、」
『財前君』
「、」
『聞いてくれる!?アタシの散々な過去…!』
「は、」
『アタシね、恋愛は青春そのものっていうか、好きな人が出来てドキドキしたりウズウズしたりムラムラしたり、時には焦れったい思いとか嫉妬とか抱えて告白が実れば良いって思ってたの…』
「、はあ」
『付き合ってからもそうだよ、いつ喰われちゃうんだろっていうドキドキと彼氏が居る幸せを噛み締めて毎日がハッピーデイズだって信じてたのに!!』
「……何の話しすか」
『だからアタシの話しだってば!!』
何なんこの展開。
俺が虐めたっぽいっちゅう雰囲気も腹立たせたっちゅう雰囲気も微塵にもないこの感じ。つまり、話しが通じてへん、そういう事なん?
『それなのにね、アタシが今まで付き合って来た思い出と言えば同級生の彼氏とデート中に他の男紹介するから誰か紹介しろって言われたり…』
「、は?」
『年下の彼氏には下着泥棒だと勘違いされてフラれるし…年上の彼氏には京都までドライブ行く途中サービスエリアで置き去りにされてね…』
「………………」
『アタシ男運も無けりゃ男見る眼も無いんだよーっ!!うわーん!』
ビッチには関わらへん方向で居るつもりが関わった事に後悔してるに変わった。
あかん、面倒臭過ぎてどうしようも無い。ほんまどないして収拾付けるんこの惨事。
(20100902)
←