自分で自分が馬鹿らしくなる。
せやけど、それで良いって思うのはあの人が笑うから。
platonic heart
sweet.2-3 笑う人
氷帝までの道中、いつもあの人は何を考えて家出するんやろとか、部長はどんな心境で迎えに行くんやろとか。考えたところでどうでも良えかっちゅう結論に至りながら歩いてた。
とりあえず気になるのは迎えが俺やとすればどんな反応するんか、それだけ。
「名前先輩、居ります?」
構内に入ったらテニスコートを目指して部室を適当にノックする。失礼、そんな言葉は関係無いし返事も無いまま開けると、
『ん?珍しい顔やな…白石ちゃうやん』
「っ!!」
一斉に振り返ったのは、のっぺらぼう顔負けの白塗りされた化け物やった。しかも部長の名前を発した奴は白塗りの上から眼鏡掛けとる。っちゅう事は謙也先輩の従兄弟の人か。
なんや…氷帝って変な宗教集団なんか…俺等も大概や思ってたけど上には上が居るんやと実感した。
『あーすまんな驚かせてしもた?俺は、』
「忍足さん、名前先輩何処に居ますか?」
『この姿で俺ん事分かるとは財前ってまさか…天才同士俺に憧れて』
「そういうちんけな発想要らんので先輩出して下さい」
『あれー!その声もしかして光ー?』
「もしかせんでもそうですわ」
『なぁがっ君…俺ってちんけなん?ちんけな男やったん?』
『もう侑士は黙っとけよ』
白塗り集団の奥から漸く目当ての声が聞こえてそっちへ足を進める。俺は部長とは違うし、鬱陶しい説教も何も無いんで。そう声にしようと息を吸った。
『光が来てくれるとは思わなかったアタシ!!』
「たまには――…っ!?」
『嬉しいーっ!』
「ぶっ」
『あ』
展開的にあの人も真っ白な顔してるんやろうと踏んでたのにそこには予想と反して真っ黒な物体。顔も頭まで漆黒なくせに眼を開けて白眼だけ浮いとる。
幾ら何でも気持ち悪くて後退りしたけどそれに構わず飛び付いてきたお陰で俺の制服は悲惨な事になった。
もう、最悪や。
『ごめん光ー!蔵が書いた肉ってやつ消す為に跡部くんが高級エステしてくれるって言うから』
「…そういうの前以て言うてくれます?」
『だって光が前以て来るって言わなかったんじゃん!』
「言ったところで携帯の電源切っとるやろ」
『あははっ!でも炭エステのお陰でツルツルんなったよ、光もジャージ借りれて良かったね』
これ以上変な騒ぎに巻き込まれたくないし、ぜんざい奢るっちゅう言葉で釣って早々に氷帝を出た、けど…何で2人揃って氷帝のジャージ着てぜんざい食わなあかんのや。こんなん予定外にも程があるし、少しだけ、ほんまに微々たるもんやけど部長の気苦労が分かった気がした。
「こんなジャージ着てぜんざい食うても嬉しないけど」
『えーでも美味しいじゃん?光がご馳走してくれたから本当美味しい!』
「……名前先輩と喋ってたら全てがどうでも良くなるわ」
『それって喜ぶところ?』
「で良いと思いますよって」
『ならありがとっ』
ほんま能天気な顔してニヤニヤしとるん見たら自分の考えてる事なんやちっぽけなもんに見える。
例えば帰り際にあの人が忍足さんへガンを飛ばしてたんも、向日さんに投げキッスしてたんも、跡部さんシカトしてたんも何でもないヒトコマに感じるし、これから部長に揃って煩い説教喰らうのも大した事無いんちゃうかって。
『あ、蔵からメール来てるよ』
「…なんて?」
『えっとねー、速やかに財前と帰って来なさい5分しか待たへん、だって』
「ソレ、今日は1時間コースちゃうんです?」
やっぱり部長の雷は遠慮したい。大した事無いとか前言撤回やし出来るなら今すぐ家に帰りたい。
とりあえずは耳栓でも買うて学校へ戻るか、なんて最後の一口であるぜんざいを惜しんで伝票を手にすると、
『蔵のお説教は嫌だけどさ』
「、」
『今日はジャージも怒られるのも光と一緒だからアタシは全然良いかなって』
「………………」
『頑張って一緒に怒られようね!』
「まあ、しゃーないっすわ」
阿呆言いながら嬉しそうに笑うもんやから、あの人に免じて今日だけは何でも有りっちゅう事にしようと思う。
(20100910)
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