platonic heart | ナノ


 


 単純な人



がっ君飛んでみそ!
そう言われたなら張り切って飛んでみたくなるって話し。


platonic heart
sweet.2-2 単純な人


『岳人…今日の1限何やった?』

「数a」


朝練が終わった後、いつも通りと言えばそうだけど侑士の怠そうな低音ボイスを聞けば疲れが倍になっちゃう気分で。学校は嫌いじゃないけどやっぱ勉強はそんな好きじゃないし、代わり映えのない在り来たりな毎日を憂鬱に思いながら部室のドアを開けた時だった。


『がっくーん!!』

「は、」

『もっと高く飛んでみそー!!』

「、」


誰、何、何処から声聞こえんの?
突っ込むより早く反応する身体は怠かった気分も制してピョンと高く空へと跳ねる。今日も冴えてるムーンサルトに優越を浮かべて空中で体を捻ると今度は太陽を背負って黒くなった影が『今度はアタシが飛ぶから宜しくね』なんて手を振ってるのが見えた。

……今の声、まさかアイツ?
かなり聞き覚えあるんだけどまさか休みでも何でもないこんな日に氷帝に居る訳ないじゃん?


「なあ侑士、」

『げっ!!』

「え?」


疑問を浮かべながらも着地だけは忘れずに、珍しくしゃんとした(でも普通じゃなく変な)侑士の声につられて空へと視線を投げた瞬間、遠く離れた黒い影が色を表しながらどんどん近付いてくる。


「はっ!?」

『久しぶりーっ!がっ君、侑士!』


物凄いスピードで落下してくる姿に、やっぱり名前か!とか思う暇も無くて、屋上から飛び降りるって馬鹿じゃねーの!とか思う暇も無くて、兎に角アイツが死んだらマズいって侑士とがむしゃらにクッションを作ってた。
間もなくしてでかい音と一緒に飛び込んで来れば『痛い』なんて聞こえて、自分も名前も奇跡的に無事だった事にめちゃくちゃ幸せを感じた。


『痛いけどドッキリ成功した?したよね?ビックリしたでしょ?』

『阿呆か!!ビックリもドッキリも度越えてんねん!俺を殺す気か!普通で良えねん普通に出て来い普通に生きとき!俺はまだ恋愛純情小説を読んでそれを実行するっちゅう重要な使命が残ってんねんで!』


なんていうか。侑士もその気になれば早口で喋れんだなぁって改めて思って。
こんな時でもヘラヘラ笑ってる名前を見ると俺から言う事は何もねぇなって。


『もうさ、会って早々そういうの信じらんないよ侑士?』

『信じられへんのはお前の頭ん中の構造や』

『ひっどい!侑士最低だよねがっ君?!』

「いやもう何でも良いよ」


未だ不意の珍プレーに心臓ドキドキしてんのが馬鹿みてえじゃんか。平凡な毎日に在り来たりとか文句言ってたのが罰当たったのか分かんないけど本当平和が一番だと思う。
けど、


「何だよその格好」

『あーこれ?氷帝ジャージ可愛いでしょ?』

「可愛いかもしんねぇけど大丈夫な訳?白石怒んねぇの?」

『チッチッチッ!ここでその名前は野暮ってもんだよ岳人君』

「あ、そう…」


何だよ結局また黙って出て来たって?先週散々大騒ぎしといてそれかよ。そりゃ俺も名前が改心するなんてあり得ないとは思ったけど。にしても氷帝ジャージまで用意するとかやり過ぎじゃね?


『せや、俺はこの間の名前の誓いに感動したんやで…せやのにまたのこのここないなとこに顔出しよって…俺の純な思い返して欲しいわ』

『だからウザイってば侑士は』

『ウザイ?俺の何処がウザイねん爽やかの代名詞やろ』

『分かったから』


何か、名前に適当にあしらわれる侑士ってのもどうなんだ。侑士も大概だけど相手は名前だかんな。


「で、今日は何かあったっての?」

『そうなんだよ!聞いて聞いて!このおでこ!普通彼女にこんな事する!?』

『…なんや“肉”ちゃうんか』

『アタシが侑士に書いてあげても良いんだよ』

『遠慮しとくわ…』


彼女のでこに自分の名前書く彼氏もどうなんだよ。ここに来る前に立海行ってそんな事されて、それでも家出する彼女。
俺どっちにもなりたくない。


『せっかく侑士に愚痴聞いて貰おうと思ったのに侑士も駄目だね』

『俺は純情な子の味方やからな』

『何それアタシが純情じゃないとでも言いたいの『アーン?誰かと思えば名前じゃねえか』』

「あ、跡部」

『何だよそのでこ、庶民の間で流行ってるゲームか何かか?アーン?』

『違うからそんなゲームないから』


思うんだけど名前って跡部に冷たくね?誰にでも愛想笑いする単純な奴だと思って―――


『そうか、だったら俺が高級エステサロン勤務のゴッドハンドと呼ばれるエステティシャンを呼んでやろう。その落書きも消して貰え』

『跡部君さすが!好き!格好良い!宜しくお願いします!』

「………………」


―――、単純だと思ったのは間違いじゃなかった。跡部もマジで残念過ぎじゃん。

でもまあな、そんな事言ってる俺だってアイツを嫌いだとは思えないしこうして顔を見れば元気なんだって安心する。つまり嫌いじゃないっていうより好きって事。
侑士だってなんだかんだ言いながら甲斐甲斐しく世話してる様にも見えるし、皆から良くして貰えるアイツって狡いなぁって思った。


(あ、名前さんじゃないですか!)
(は、またアイツ来たのか?今度こそ白石にフラ、)
(宍戸さんそれ禁句ですって!)
(ああ、あの人か…下剋上だな)
(日吉の言ってる意味分かんないC、名前に下剋上しても意味無いC)
(あれ、侑士何やってんの?)
(また謙也にメール入れとこ思てな)
(よしお前等良く聞け!今から名前の歓迎パーティーだ!)
(跡部君ステキ!)


(20100806)


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